親愛なるアッティクスへ
今東光和尚シリーズ第三弾です。
前回、校長に見送られて後、彼は東京に出るも、その年のうちに実父に勘当されてしまいます。
当時の勘当は、今の形ばかりの勘当とは違い、戸籍上も強い権限を持つ「戸主」による勘当ですから、本当に勘当なのでしょう。
そんな折り、捨てる神あれば拾う神ありで、彼は生涯の親友となる人物に出会います。
意外や意外、あの、日本初のノーベル文学賞作家、川端康成です。
極道和尚と呼ばれた異端児と、正統派の優等生作家という組み合わせは、どうにも「意外」以外の言葉で形容し難いものがありますが、二人は互いに自分にない物を相手の中に見つけたということなのでしょうか・・・。
しかし、そうは言っても、今東光はともかく、当時から将来を嘱望されていた川端が、とかくの風評のあった今に対し、よくぞ胸襟を開いたものだと、私はそちらの方に驚きを隠し切れません。
やはり、それには、川端康成という人物の生い立ちが関係しているように思えます。
まじめで、繊細そうな印象を受ける川端ですが、彼は物心付くかどうかの時に両親を失い、祖父母に養育されたものの、やがて15歳にして祖父母に姉まで亡くし、天涯孤独の身となってしまいます。
以後、彼は、他人に養育されてきたわけで、そんなもの悲しい育ちが、じっと相手を冷徹なまでに観察するという目を養わせたのかもしれません。
おそらく、その人間心理に透徹した目は、意外に、その人を過去や風聞などだけで見ることをせず、瞬く間に相手を丸裸にしたのでしょう。
ともあれ、方や退学勘当の無頼・今東光少年と優等生ながら身寄りのない川端康成少年は出会い、そして、どこをどう認め合ったか、二人は大いに
意気投合し、毎日のように互いの家を行き来するようになり、やがて、川端が
一高に行けば今は一緒に付いていって
一高の授業を受け、
東大に行けば
東大の授業を受けた・・・と。
(つまり、今は一高、東大の授業は受けたが在学はしていない・・・と(笑)。)
ただ、だからといって、今東光がそれで
品行方正になったわけではないことから、彼を快く思わぬ者も少なくはなかったらしく、川端は若くして
日本作家連盟への加入を持ちかけられた際にも、
「評判の悪い今東光と縁を切ることが条件・・・」と言われたことがあったそうで、この条件に対し、川端は少し考えた後、「それでは、連盟入りを辞退致します」と言ったとか・・・。
これこそが、まじめで、おとなしそうで、優等生を絵に描いたような川端が、思慮深さの中に、はっきりと
自己という物を強く持っていた証だと思います。
平太独白