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西本幸雄という大正男についての忘れられない話 その2
親愛なるアッティクスへ

元プロ野球監督の、西本幸雄氏は、昭和19年、南京の予備士官学校を卒業後、陸軍少尉として中国戦線での補給部隊についています。
補給部隊と言っても、食糧、弾薬などの補給物資を運ぶ運搬主体は、主にですから、当然、兵隊の命よりも馬の方が優先>される状況だったわけで・・・。

終戦後、西本氏は、ノンプロを経て、毎日オリオンズに入団、二軍監督、一軍コーチを経て、昭和35年、ついに、大毎オリオンズ監督に就任、いきなり優勝に導き、一躍、脚光をあびるわけですが、これは、その、監督就任間もない頃の話です。
試合開始直前、大毎の三番打者だった榎本喜八一塁手は、打席に備えて、ベンチ前で素振りを始めた・・・と。
そこへ、たまたま同僚選手が通りかかり、脇を通り抜けようとして榎本選手の球界屈指のスピードを誇るパットスイングが、運悪く、その選手のあごに直撃してしまったのだとか。
当然、同僚選手のあごの骨は砕け、みるみる鮮血がこぼれ落ち、大騒ぎになって、救急車で病院に運ばれる事態に、選手たちは動揺の色を隠せず、特に、当事者の榎本選手は、顔面蒼白だったとか。

西本監督がロッカーへ呼ぶと、「すみません、不注意でした」、「すぐに病院へ行きます」、「私が責任を持って」と連呼するのみ・・・。
次の瞬間、西本監督の鉄拳が、榎本選手の顔面に、二発、三発、四発、五発・・・と降り注いだ。
そして、「バカもん!いいか、俺たちは今、戦争しているんだ!味方の兵隊が一人、斃れたくらいで何だ!!」と。

「兵隊が一人、斃れたくらい…」なんて言葉、今の日本ではなかなか出てこないですよ。
でも、西本氏にとっては、ほんの15年前までの、まごうことなき現実だったわけで。
この点で、昔、「二〇三高地」という映画の中で、日露戦争のさなか、戦闘前の弾薬搬送に従事中の博徒上がりの兵隊に、たまたま通りかかった馬上の乃木希典第三軍司令官がたばこを差し出すシーンがありました。
緊張する兵隊に、乃木はやさしく、「体は大丈夫か?」と声を掛けたところ、兵隊は、「いやぁ、わしらぁ消耗品ですき」と答え、多くの兵士を死なせた乃木が哀しそうな表情を浮かべる・・・と。
もちろん、これはフィクションだとは思いますが、ここでいう、「消耗品」という言葉こそが、兵隊というものの置かれている立場を、何より、雄弁に語っているでしょうか。

ちなみに、この後、榎本選手は西本監督の喝で目が覚めたかというと、やはり、そんなドラマみたいにはいかないわけで、試合には出場したものの、1打席目、2打席目凡退・・・。
とはいえ、三回に一回打てば強打者と言われる世界ですから、やむを得ない話でしょう。
ところが、西本監督という人の凄いところは、3打席目を迎えた榎本選手に、「オマエ!まだ、眼が覚めないのか!目が覚めなければ弾丸に当たって死ぬだけだ!」と叱咤したのだとか。
昭和11年生まれの榎本選手は、この打席、必死の想いで右前安打したとか・・・。
平太独白

by heitaroh | 2008-07-09 08:28 | スポーツ | Trackback | Comments(4)
Commented by Kazu at 2008-07-09 22:13 x
私には悲劇の名将といわれた阪急の監督時代の見た目は穏やかそうな姿しか知らなかったので驚きました。もしかしたらあの年代で戦争から帰ってこられた下士官以下のどの方も同じ考え方をされていたのではと推察します。それを表に出す人と出さない人の違いがあるだけで。
Commented by へいたらう at 2008-07-10 15:08 x
< Kazu さん

私も、リアルタイムで見ているときは、ずっと、パの監督ばかりだったこともあって、地味な印象しかなかったですね。

監督を引退するときに、「息子は殴れるけど孫は殴れない」と言っていたので、昔は、相当、鉄拳制裁やったんだろうなとは思ってましたが。

ちなみに、山口瞳(でしたっけ?)さんが、雑誌の企画でキャンプ巡りに行ったときに、「明日は、雨だから休みでしょ?」とカメラマンに言ったら、「あのオヤジが雨くらいで休みまっかいな!」と言われ、翌日、半信半疑でグランドに行ったら、しっかり、練習があっており、雨の中、ウィンドブレーカーを着て凛と立つ指揮官の姿に感動したいう話をされてました。
Commented by 岡本一心(妹背牛町観光大使) at 2008-11-29 20:11 x
大学時代には練習試合(選手兼監督)で審判に抗議し試合放棄。ノンプロ別府星野組が給料遅配した際、野球部員の給料を借金してまで工面したそうです。
Commented by heitaroh at 2008-11-29 20:37
<岡本一心(妹背牛町観光大使)さん

そうですか。
如何にも西本さんらしい一徹さがうかがえるエピソードですね。

江夏さんも、あの江夏の24球のとき、「あのおっさん、辞めるんちゃうか」と心配になったと言ってましたから、当時、あの江夏みたいな人でもそう思わせる物があるのか・・・と少し、驚いたのを思い出しました。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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