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「山座の前に山座なく、山座の後に山座なし」
親愛なるアッティクスへ

山座円次郎という人物をご存じでしょうか。
慶応2年(1866年)、筑前福岡藩の足軽の次男として福岡に誕生。
その後、藤雲館(現在の福岡県立修猷館高等学校の前身)、共立学校(開成中学・高校の前身)、東京大学予備門(旧制第一高等学校の前身)を経て、東京帝国大学法科を卒業後、外務省に入省。
特に東京大学予備門時代の同期生には、夏目漱石、正岡子規、南方熊楠、秋山真之らがおり、中でも、南方熊楠とはその後も親しく付き合っていたといわれています。

山座は、そのあまりの有能さゆえに、秀才揃いの外務官僚の中でも「山座の前に山座なく、山座の後に山座なし」といわれたほどで、当時、明治の元勲・伊藤博文が山座が起草する外交文書の完璧さを認めたがらなかったことから、山座は一計を案じ、伊藤が目を通すであろう外交文書には、伊藤であれば必ず修正するであろう部分を一箇所だけ故意に作っておいたという話さえあります。
伊藤博文でさえも、掌の上の孫悟空として扱っていたというこの一事だけでも、この山座という人の容易ならざる才能が見て取れるでしょうか・・・。
(もっとも、日露戦争後の大陸進出については、山座は積極論者で、この点、伊藤の方が数段上に想えますが。)

山座は、郷土の先輩で嘉永4年(1851年)生まれで15歳年長になる栗野慎一郎の引き立てを受けると同時に、明治11年(1878年)生まれで、山座より12歳の年少である後輩・広田弘毅(後の首相)を外務省に引き入れたことでも知られており、その意味では、栗野が山座を引き立て、山座が広田を引き立てた・・・といえるでしょうか。
(ちなみに、外務省福岡人脈で広田の22歳後輩に当たるのが守島伍郎という人物ですが、この人は皮肉なことに東京裁判において広田の弁護人を務めています。)

明治34年(1901年)には、栗野の後押しもあって、弱冠35歳にして外務省政務局長に抜擢され、その後、日露開戦時には宣戦布告文を起草・・・。
それを、ロシア政府に手渡したのが、時の駐露公使・栗野慎一郎だったわけで、そう考えれば、日露戦争当時、外には栗野、内には山座という、二人の福岡人が日本外交の中枢にいたということになるわけで・・・。
この点は、金子堅太郎明石元次郎らと共に、維新前夜に勤王派を弾圧し、明治になってからは「贋札事件」を起こして、唯一、廃藩置県前にお取り潰しに相当する処置を受けた筑前福岡藩出身者の想いが何となく、透けて見えるような気もします。

その後、山座は日露戦争終戦時には、小村寿太郎外相を助け、ポーツマス講和に尽力し、その後、大正2年(1913年)に駐中国特命全権公使となり、辛亥革命後の中国に赴任するも、翌年の大正3年5月28日、48歳の若さで客死しています。
(これは、その辣腕ぶりを恐れた袁世凱による暗殺も噂されています。)
外務省内で山座のライバルと目されていたのが、後に外相・首相を歴任した幣原喜重郎であることを思えば、彼が早世しなければ、あるいは幣原と並ぶほどの栄達を遂げた・・・と思うのは私だけでしょうか。
                                       平太独白

by heitaroh | 2008-02-21 08:13 | 歴史 | Trackback | Comments(4)
Commented by D-KID at 2008-02-23 21:57
広田弘毅は元首相として聞いたことがあるんですが、山座円次郎という人物は初めて聞きました。

何か詳しく書かれた小説でもありますか?
Commented by へいたらう at 2008-02-23 23:35
< D-KID さん

そうですね。
広田弘毅は小説で有名には成りましたが、栗野と山座は、今でも知る人ぞ知る・・・みたいな世界ですからね。
そのうち、D-KID さんが書いて下さい。
私には荷が重すぎるようですから(笑)。
Commented by sakanoueno-kumo at 2021-12-09 17:33
わたしも山座円次郎という人のことは知りませんでした。
秀雄の著書の毒殺の噂の話で1行だけ出てきただけで・・・。
日露開戦時には宣戦布告文を起草した人なら、「坂の上の雲」に出てましたっけ?
憶えてないです。
さすがにお詳しいですね。
Commented by heitaroh at 2021-12-13 10:50
> sakanoueno-kumoさん
私も福岡藩出身だったというから興味を持っただけで、遠方だったら聞き流したでしょうね。
坂の上の雲に出て来たかどうかは覚えてませんが、(坂の上の雲を読んだのは40年前、山座を知ったのは20年ほど前ですので。)講和条約のときの全権団ナンバーツーですから、ドラマなんかには出てきますよ。
ちょい役ですが(笑)。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱「財閥」の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

令和7年 19世紀ロンドンと東京。「描きたかったのは猟奇ではない。悲惨である」。「女王陛下の十手持ち」出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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