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徳川無声日記に見る遊びをせむ的小林一三の卓見
親愛なるアッティクスへ

まだ、私が二十代の頃だったと思うのですが、阪急の創始者にして、天才的なアイデアマン社長と言われた小林一三翁の伝記を読んだことがあります。
(翁については、以前から、平太郎独白録 : 松下電器のマネシタをやらない床屋の怠慢。などでも述べてきたように、その独創的な事業の多くは、当時としては驚くほど斬新なものであり、駅のターミナルデパート、鉄道沿線での住宅分譲など、今となっては当たり前の事業になっている話も、この人が始めるまでは誰も思いもつかなかったわけですから、その力量のほどがわかると思います。)
で、その中で、小林翁の卓見がどうしても、理解できない箇所がありました。

それは、世界恐慌の頃だったか、世の中が絶望的なまでの不況どん底にあるときに、娯楽産業に進出したことでした。
曰く、「人々は、不況になればなるほど、娯楽を求めるようになる」ということだったのですが、私の考え的には、「不況になればなるほど、娯楽など、生活に関係のない部分は真っ先に切りつめられる」・・・というものでした。
飯は「金がないから食うのをやめよう」というわけにはいきませんから、人々は、金がなくなれば娯楽を削ってでも衣食住などの最低限の出費に当てようとするはずだ・・・と。
しかし、史実は、やはり、当然ながら、小林翁の方を支持したようで、ふたを開けてみれば、このとき、宝塚東映など、翁が手がけた娯楽産業は大不況にもかかわらず大盛況だったとか。

このことは、長く私の中に引っかかっていたのですが、最近、そのことを思い出させる一文に出会いました。
先般読み終えた、渡邊行男「緒方竹虎 リベラルを貫く」という本の中で、太平洋戦争直後について記した部分です。
曰く、
『九月二日朝、重光・梅津の両全権はミズーリ号に至り、歴史的な降伏文書に署名した。重光 葵は命を賭す思いの短歌を残している。
「ながらへて 甲斐ある命 今日はしも しこの御楯と 我ならましを」。
だが、当時の庶民の感覚とは違うようである。
徳川夢声の日記によると、「降伏調印式の、東京上空を無数の米軍機が飛んだ。威圧のためだろうが壮観だったので、子供らを呼んで二階で眺めた。
新宿はどの劇場も満員、殊に 『太閤記』を上映している帝都座の入りは大変らしい。角を曲って一丁ぐらい列が続いている。私の出演している松竹館も、三階まで人が詰まった。…観客は殆んど全部、若い男である。落語を聴き、私の漫談を聴いて、朗らかに笑っている」 と庶民は終戦直後から平和を楽しんでいる姿を伝えている。 』と・・・。

生活が厳しいからこそ、人々は娯楽を求める・・・。
この一見すると、矛盾するような世相が起こるということは、即ち、「遊びをせむと生まれける」ではないですが、つまりは、人は何のために生きているのか・・・という、人だけが持つ生きることに対する目的意識の是非にまで踏み込むことなのかもしれません。
平太独白
by heitaroh | 2008-01-16 08:01 | 経済・マネジメント | Trackback | Comments(2)
Commented by D-KID at 2008-01-16 21:54 x
『人はパンのみに生きるにあらず』という言葉を思い出したのですが、誰の言葉でしたっけ?

多分、『“命を繋ぐだけ食べられれば良い”で終わっていたら、それは人間として存在する意義を持たない』みたいな神様の意思があるんじゃないですかね?


信仰心が篤いわけじゃないのですが、どっかで神様が見てるんじゃないかと思うD-KID。
Commented by heitaroh at 2008-01-17 15:02
<D-KID さん

「パンとサーカス」ということばもありましたよ。
あんまり、たくさん色々なことがありすぎると、それらを全部、ほっぽらかして、とりあえず、今を楽しもうよ・・・という気になることがあるようですね。

私も、ご飯だけで生きては居られないようです。
最近、中洲禁断症状が出つつあるへいたらう(笑)。

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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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