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二〇三高地の功罪
親愛なるアッティクスへ

日露戦争での激戦地・二〇三高地は「乃木希典が攻略したと言われているが、実際には苦戦を見かねた児玉源太郎が、自ら担当部署だった第3軍に乗り込み、現地軍を直接、指揮して陥落させた」と言われています。
この点は、確かに日本の死命がかかっていたわけで、やむを得なかったとは思いますが、あのとき、児玉は日本軍全体の指揮を執る立場にあった満州派遣軍参謀総長だったわけで、そのことを考えれば、それが、その下の第3軍の指揮権を奪ったということは、後に、帝国陸軍において高級参謀たちが「緊急時だ!」と言って、勝手に現場の指揮権を剥奪するという悪例をつくってしまったことでもあり、そのことを思えば、一概に賞賛ばかりされることでもないような気がします。

本来ならば乃木第三軍司令官と伊地知幸介参謀長ら司令部幕僚を更迭し、第三軍を編成し直すべきであったのに、乃木が明治天皇のお気に入りだったのと、軍首脳の任命責任も問われることになるのを恐れたため、責任を明確にすることなく、安易に弾力的解釈でこれを乗り切ったことが、後々、太平洋戦争において、大きな混乱と災いを招くことになった・・・と。

二〇三高地の功罪_e0027240_12143685.jpgさらに言えば、あの甚大なる被害を出した旅順要塞攻略戦は、乃木・伊地知コンビの無能ゆえであったということが巷間、指摘されているわけですが、これは一概にそうは言えないようです。
まず、乃木は司令官に任命された時、隠退生活を送っていた事実上の退役軍人だったことや、伊地知参謀長も必ずしも要塞攻略の専門家ではなかったことを思えば、薩長のバランス人事だけで登用されたという不適切人事だったことが挙げられるでしょう。

また、こういう場合、往々にして現場の方が状況をよく理解している場合が多く、旅順は203高地を含む敵防衛拠点を奪取しなくとも、十分、別の山から湾内のロシア艦船砲撃は可能であり、実際、ここから湾内の敵艦隊を砲撃しており。しっかり、これでロシア旅順艦隊は殆ど壊滅していたと言われていますから、すでに目的は果たしていたと言っていいでしょうか。
もっとも、旅順要塞攻略を要請した海軍側としては、「壊滅したと思う」では困るわけで、どれだけの犠牲を払おうとも、はっきりと「壊滅した」という報告を聞くまでは、それ以上の確実な結果、つまり二〇三高地攻略を望むのは当然だったでしょう。

ただ、もし、そうであるならば、児玉源太郞の「悪弊を残してまでの指揮権剥奪」とは一体何だったのか?と言わざるを得ないように思います。
児玉にしてみれば、203高地が戦争自体を左右しかねないと認識していたがゆえの、大局的見地に立った指揮権剥奪などではなく、一大決戦が迫ろうとしていた満州での主力軍同士の主戦場では、消耗が激しく、その為には、一刻も早く、旅順など切り上げて、本軍に合流してくれという想いでのことだったのでしょう。
これはこれで、やむを得ない話ではあるのでしょうが、203高地の攻略と指揮権剥奪という二つの大きな「被害」は、もっと他の形でもクリアできたのではないでしょうか?
これは、権限委譲を進めていく上で、現代の我々にも当てはまることだと思います。
ご自戒ください、御同輩・・・。
                       平太独白
by heitaroh | 2007-10-27 08:56 | 歴史 | Trackback(1) | Comments(4)
Tracked from 早乙女乱子とSPIRIT.. at 2010-12-28 17:55
タイトル : さらば誇り高き武人 〜坂の上の雲・広瀬、死す〜
줯ˤʤĤĤȡˡƴݡʤˡ աǥåξˡ ǤӤ溴ζӡ ֿϲʤˡϵ鷺ס ⷨʤҤ̤뻰١ʤߤӡˡ Ƥ٤ؤɸؤ ϼˡȴ֤ߡ ŨƤ褤褢ˤ ϤȥܡȤˡܤ溴 ƴݡʤޡˤˡơ ιߤ עȡ̾Ĥ ʸʾΡع溴 ξμ㤤ǵϤˤʤäϪ衣 �Ū˹⤷ƤȻפߡϥ�ĤȻפäƤ褦 ޤϤʤ� ܤƱꥹˤ衢¾ιˤ衢�εˤǤȻפäƤ� ¾ï...... more
Commented by D-KID at 2007-10-27 22:45 x
乃木大将によく言われる『無能論』は、司馬遼太郎氏が書いた『坂の上の雲』で氏が旅順攻略戦での多くの犠牲が乃木大将や伊地知参謀らの至らなさの上に成り立っている、という個人的見解が大きく影響しているそうですね。

もっとも203高地陥落も、乃木大将更迭から児玉大将に実権が移ってわずか4日後だったそうですから、別に乃木大将を下ろす必要性は後から思えば必要ないんでしょうけど。
Commented by へいたらう at 2007-10-28 17:19 x
< D-KID さん

以前も申し上げましたが、司馬遼太郎にしろ、塩野七生にしろ、あまりにも良い仕事をしすぎたが故の弊害として、司馬史観、塩野史観をして、史実だと思いこんでいる人が少なくないですよね。
伊地知参謀にしても、坂の上の雲や映画203高地などのせいで、無能の極致みたいに言われているのは少し可哀想な気がします。

明治天皇崩御後、乃木が殉死したことで、乃木は聖人か神かというほどまで崇められましたから、その乃木の作戦がまずかったというのはまずいので、伊地知を・・・という、忠臣・楠木正成が奮闘の割に逆賊・足利尊氏におしまくられることの非を新田義貞に押しつけたのと同じことではないかと。
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-12-28 18:47
その司馬氏のあまりにも良い仕事をしすぎたが故の弊害をモロに受けているひとりです(笑)。

>悪弊を残してまでの指揮権剥奪

なるほど、そこまで考えたことはありませんでしたが、言われてみればそうかもしれません。
ただ、乃木の更迭については、軍首脳の責任問題や明治天皇のお気に入りだったこともあったでしょうが、これも司馬さんの言葉を借りれば、途中で指揮官の首をすげかえるのは、現場の士気に影響するという旨のことを言っていたように思います。
その論が正しいかどうかはわかりませんが・・・。
それに、もし乃木の無能論が正しかったとして、児玉に乃木を更迭できるほどの力があったのでしょうか?
乃木を司令官に強く推したのは山県だったといいますから・・・。
児玉にしてみれば、乃木と伊地知を更迭して第三軍を編成し直すべきだとわかっていても、山県の手前それはできず、ああするしかなかった・・・と。
Commented by heitaroh at 2010-12-29 11:40
< sakanoueno-kumoさん

その通りですね。
であるからこそ、「我慢して使い続ける」か「士気を下げてでも更迭するか」だと思いますが、ただ、兵士の士気などというのは将帥次第でどうにでも変わりますよ。
その意味では、私は首をすげ替えて、相応しい人を送り込むべきだったと思います。

乃木はあくまで、大山巌総司令官の指揮下にある一将軍ですから、大山の参謀長である児玉であれば、大山の罷免状さえ持参すれば更迭は可能だったのではないでしょうか。
ただ、そうなると、乃木は生きていなかったでしょうから、それらを勘案するとああするしかなったのでしょうが、前例として定着してしまったことを思えば、随分、高い代償についたなという気がしますが。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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