人気ブログランキング | 話題のタグを見る


賢兄愚弟賢弟愚兄・・・いずれが是か非か。
親愛なるアッティクスへ

かつて、ナポレオンを評して、「人格はともかく、能力の点では、あの男は、ウラル以西ではカエサル以来の物を持っていた」と評した人がいたという。
では、ウラル以東ヒマラヤ以北・・・、いわゆる、東洋世界ではどうだろうか。
一人は、そのナポレオンをして、「予の壮挙もあの男の前では児戯に等しい」と言わしめたモンゴルの英雄、チンギス・ハーンであろうか。
では、もう一人、カエサルに当たるのは・・・というと、三国志で有名な魏の武帝、曹操が思い浮かぶ・・・。
が、中国三千年の歴史には、あまり、知られていないが、その曹操を凌ぐほどの人物がいるのである。

同年代中国の歴史年表をひもとけば、前の方、古代王朝に位置する部分に、「前漢」「後漢」という二つの漢王朝があるのに気が付く。
その、「前」の方の漢王朝を創始した劉邦という人物は、若い頃から、遊興放蕩の行いが強く、それに対し、その兄、劉仲はまじめで実直、農作業にいそしむ親孝行な人物だったという。
従って、母はいつも、劉邦に向かい、「少しは兄さんを見習ったらどうだい!」と罵倒していたとか。
ところが、劉邦は、無頼の徒に身を投じた後、時運に乗り、反乱軍の頭目となり、ついには、項羽を破って、中国全土を統一し、漢帝国皇帝となってしまった。
後に、母に、「どうです、兄さんと私とどっちが偉かったですか?」と聞いたという。

その後、さしもの隆盛を誇った漢王朝も紀元8年、王莽という人物により、帝位を簒奪され滅亡するが、王莽は古の政治を理想とし、現実を無視した政策を推し進めたことから、国内各地で叛乱が頻発するようになり、時代は再び、乱世となった。
このとき、たまたま、漢王朝の創始者・劉邦と同姓の者に劉秀という若者がいたのだが、この若者は実直温和、質素で農作業に熱心な性格であったが、それと対照的に、その兄、劉縯は家業には手を貸さず、遊侠無頼の徒に交わることを好んだ。

22年冬、その劉縯が挙兵した。
最初は思うように兵が集まらずに苦しんでいたが、慎重な性格と評判であった弟の劉秀が参加すると、蜂起軍に参加する者が次第に増え、ついには、王莽の軍を撃ち破り、一躍、兄弟・・・、特に、劉秀の名は高まった。
その後、兄弟の名声の高まりを恐れた勢力により、劉縯が殺害され、このとき、劉秀にも危険が迫ったが、劉秀は、巧みにそれをくぐり抜け、苦労の末、ついには、自立を果たし、自ら皇帝を名乗る。
これにより、中国大陸は光武帝劉秀によって統一されたのである。
光武帝は、前に滅亡した漢王朝皇帝家の劉家とたまたま同姓だったことから、自らの王朝を、漢王朝の復興政権と位置づけ、国号も「漢」と号したが、後に、これを区別するために、「前漢」、「後漢」と称されるようになった。
これが、後漢王朝の始まりである。

無頼がいいのか、実直でいいのか・・・。
兄が良いのか、弟が良いのか・・・。
その答えは、容易に見出せそうもないが、ただ、無頼派の代表、劉邦は、帝位についた後、功臣らの粛正に動いたことで、その治世に暗い影を落としているが、実直派の代表、劉秀はそういうことはなく、逆に、必要に迫られたとはいえ、度々、奴隷解放令などを公布して、人身売買を厳しく規制するなど、極めて、ヒューマンな政策を実施し、また、門限を守らなかったことで、家臣から、二度も城に入れてもらえなかったなどという微笑ましい逸話も残している。
光武帝劉秀は、高祖劉邦に比べると、日本での知名度は低いものの、中国三千年の歴史の中でも、第一級の人物として、玄人筋では評価されている人物である・・・。
                               平太独白
by heitaroh | 2007-09-03 08:26 | 歴史 | Trackback | Comments(10)
Commented by D-KID at 2007-09-03 22:26 x
光武帝といえば、『仕官するなら執金吾、妻を娶らば陰麗華』ですよね。漢文の講義で習った覚えがあります。聞いた話では、『柔よく剛を制す』もこの方の言葉だとか。

仰るように前漢の高祖・劉邦と比べると知名度は低いですよね。光武帝について記された書物が少ないのが原因と言われているようですが。

特に講義の時に聞いた逸話で印象に残っているのが、ある国の使節と対面し『もし私が刺客だったらどうします?』との問いに『いや、刺客でなく説客でしょう』と切り替えしたそうです。非常にウィットに富んだ帝だったんでしょうね(^^)
Commented by へいたらう at 2007-09-04 13:58 x
<D-KID さん

おお!よくご存じですねぇ!
これって、漢文で習うんですか・・・、意外と(?)学がありますね(笑)。

この人の場合、前に項史記、後ろに、三国志という、中国史を代表する荷台ベストセラーがあるわけで、ただ、この人について記された物が少ない・・・というだけでは、イマイチ、説得力に欠ける様な。
やはり、人柄そのものが、イマイチ、物語の主人公に成り得ない何かを持っていたのだと思います。

ちなみに、ウィットと言えば、まだ、無名時代、同姓同名の劉秀という時の高官が皇帝になるかも・・・という話が出たときに、「どうして、俺の事じゃないってわかる?」と言って、爆笑させたとか。
まさか、こっちの劉秀の方が偉くなるなんて、誰も思わなかったんでしょうね。
Commented by motton at 2007-09-04 18:51 x
中国史では光武帝と宋太祖は人格と能力を兼ね備えた稀有な例ですね。
光武帝が主人公に成り得ないのはちょっと完璧過ぎるのでしょうね。

細かいことですが「光武帝」は諡号ですから自ら名乗ってはいません。
また、たまたま同姓なのではなく前漢の景帝の末裔になります。
Commented by へいたらう(管理人) at 2007-09-04 20:37 x
<mottonさん

コメント有り難う御座います。

宋太祖は、光武帝よりは、もっと、人間的な欠点を隠さない人だったようですね。
短気でよく反省していたみたいですし。
ただ、能力的には、光武帝と並び立つほどだったとまでは思えませんが・・・。

そうですね。
よく考えてみれば、光武帝は諡号ですよね。
失礼しました。

ただ、前漢の景帝の末裔というのはどうでしょうか?
後から、むりやり、くっつけたんじゃないですか?
いやしくも、皇帝の縁者たる者が百姓やってるなんてのは、いかにもって感じで(笑)。
秀吉が、実は、天皇の落とし子だとかいうのと一緒で。
私も、今度から、備前岡山藩主池田光政の庶子の義弟の従弟の末裔だということにします(笑)

ちなみに、劉備も、中山靖王の末裔なんて名乗ってますが、あれも、信じていいんですかね?

Commented by motton at 2007-09-04 21:48 x
系図もしっかりしており、父の世代は県令クラスなので間違いないでしょう。
劉備とは比べものになりません。
父が早く死んだので貧乏だったようですが、叔父によって長安に留学させてもらってもいます。
Commented by D-KID at 2007-09-04 22:32 x
お褒めの言葉、ありがたき幸せに存じますm(_ _)m
意外と雑学的な知識?は持っているもので(^^;

mottonサンが仰るように、人物としてパーフェクト過ぎて欠点が見えなかったんでしょうね。だモンで、物書きの立場からするとアウトローな人間を書きたかったから食指が動かなかったとか?(笑)
Commented by へいたらう at 2007-09-05 11:01 x
<mottonさん

父の代が県令クラスであったとしても、それで、いきなり、皇帝の末裔と断定するのは、ちと、早計ではないかという気がします。
(系図などというものは、後から、どうにでも作れる物ですから。)
それに、景帝の血筋というところが引っかかりますね。
劉備が名乗った中山靖王も、景帝の子供か何かですよね。
景帝というのは、そういう御落胤伝説を作りやすい逸話が多い・・・、あるいは、調べにくい人だったということなんじゃないですか?
Commented by へいたらう at 2007-09-05 11:07 x
<D-KID さん

私は、この人についての書を読んだのは、実は、かなり昔なんですよ。
(たぶん、貴兄がまだ小学生くらい?(笑)。)
それで、それほど詳しく覚えているわけではないので、逆に、言われて、「そうそう!」って感じで新鮮でしたね。

でも、完璧すぎると、物書きとして、食指が動かないというのも、どうなんでしょうか?
物書きとは、とかく、欠点だらけの人を聖人君子のように描くもののようですが(笑)。
Commented by あも at 2007-09-28 23:20 x
 はじめまして。
「史記」を読むと劉邦という男は得体の知れない人間ですね。功臣の処分の仕方もそうですが。
 それにしても、漢の創始者(高祖)について、こうもあけすけに書くことを許可した武帝も偉いというか・・。
 
Commented by へいたらう at 2007-09-29 10:43 x
<あもさん

初めまして。
コメント有り難う御座います。

劉邦という人は、確かに、人徳者なのか、目的の為には手段を選ばぬ人なのか、定かでないところがありますよね。
その意味でも、良かれ悪しかれ、時代に愛された人だったんでしょう。
武帝と司馬遷の間には、色々とあったようですから、書くことを許可したというか、司馬遷の方が意地を通したと言うべきか・・・。
まあ、武帝の方も、OOをちょん切ったことで負い目があったのかも知れませんが。
<< 黒澤明の映画にみる「あの戦争」... 日本に二大政党制はなじまないの理 >>


国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
ライフログ
最新のコメント
sakanoueno-k..
by heitaroh at 19:20
おっしゃる通りですね。 ..
by sakanoueno-kumo at 14:59
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:01
堀で防御を固めたような大..
by sakanoueno-kumo at 15:36
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:34
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:24
おっ! ここ行かれたん..
by sakanoueno-kumo at 22:00
なるほど。 そこまでは..
by sakanoueno-kumo at 21:49
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:13
おっしゃるとおり、悪人と..
by sakanoueno-kumo at 13:53
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:42
案外、美魔女妻に叱られて..
by sakanoueno-kumo at 21:20
> sakanoueno..
by heitaroh at 19:43
だけど、黒木華ちゃんって..
by sakanoueno-kumo at 10:59
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:21
検索
タグ
(67)
(56)
(55)
(53)
(51)
(46)
(43)
(42)
(42)
(36)
(33)
(32)
(31)
(31)
(30)
(28)
(27)
(27)
(26)
(26)
(25)
(24)
(24)
(24)
(24)
(23)
(22)
(21)
(21)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(19)
(18)
(18)
(17)
(17)
(17)
(17)
(16)
(16)
(15)
(15)
(15)
(14)
(14)
(14)
(14)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(12)
(12)
(12)
(12)
(12)
(11)
(11)
(11)
(11)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(9)
(9)
(9)
(9)
(9)
カテゴリ
以前の記事
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
最新のトラックバック
フォロー中のブログ
ブログパーツ
  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧