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大老、井伊直弼の歴史的位置付け
井伊直弼という人物が居ます。
ご承知の通り、彦根藩主であると同時に桜田門外の変で暗殺された江戸幕府の大老だったわけですが、彼の暗殺は、あの司馬遼太郎氏をして「時代が10年進んだ」と言わしめたほど、その存在は時代に逆行していたと言われています。
しかし、彼の思想自体は保守的であったとしても、彼の採った政策は、後の明治政府ともさほど大きな隔たりがあったようには感じられません。
(この点では、「航海遠略策」を掲げながらも攘夷の声に押され、非業の死を遂げた長州藩の長井雅楽も同様ですが・・・。)

そう考えれば、果たして彼は暗殺に値する頑迷固陋な「愚者」だったのか、それとも、単に運が悪かっただけの「悲劇の人」だったのか、私の中では歴史上の位置づけが決めかねる人物でした。
で、最近、やっと思い当たったことがあるのですが、結論を言うなら彼は時代の流れというものを認識しようとはせず、それを押し戻そうとして逆に押しつぶされた人物であったと思います。
ただ、ここで問題なのは、彼が歴史を押し戻そうとしたのは政策ではなく、それを実行する者が誰なのか?と言う権力闘争の為であったということ。

すなわち、彼にとっては、開国か攘夷かの政策論争は問題ではなく、その政策を決定するのは徳川幕府であり、その幕府を動かすのは家康が定めた通りの譜代大名でなければならないということだったわけです。
つまり、権力闘争は権力闘争でも、一方では、家康以来のそのシステムを繕いながらも護っていかなければ成らない、護っていけるとする直弼らと、国難に際し自分たちも国政へ参加させろ!という、それまで幕政から閉め出されてきた者たちとの目指そうとする国体の違いによる対立だったと言えるでしょうか・・・。
従って、直弼は、英明の誉れ高い薩摩の島津斉彬はもとより、一橋徳川家の当主であった徳川慶喜や、同じく、田安徳川家の出身である松平春嶽などの親藩諸侯ですら、幕政への参与を徹底的に排除し続けたと。

ところが、直弼の横死後、明治政府を動かすことになったのは島津でもなければ毛利でもない、直弼からすれば大名でも何でもない陪臣と呼ばれる西郷隆盛大久保利通木戸孝允ら外様大名の家臣らであり、さらに彼らの遺志を継いで、明治日本をリードしていくのは、直弼からみれば、江戸時代の巨大な身分ピラミッドの中では、武士以前の虫けらにも等しい身分であった伊藤博文山県有朋ら卑賤の者たちであろうとは直弼も夢にも思わなかったでしょう。
もし、直弼が権力を独占することをせず、幕政参加者を大名、諸侯にまで拡げていれば、あるいは伊藤、山県らの時代はなく、その後の歴史も随分、変わったかもしれません。
直弼は、この点で、革命という底辺の者たちの唸り声に対して、余りにも無関心で有りすぎたといえるのでしょう。
もっとも、封建君主にそれに気付けというのは、ちょっと無理な話だったでしょうが・・・。
                                      平太独白

by heitaroh | 2007-07-07 08:31 | 歴史 | Trackback(1) | Comments(6)
Tracked from 坂の上のサインボード at 2013-02-05 21:21
タイトル : 八重の桜 第5話「松蔭の遺言」その2〜桜田門外の変〜
 安政の大獄の嵐が吹き荒れた安政6年(1859年)が暮れて、翌万延元年、大老・井伊直弼の独裁専制と志士弾圧に反発する空気はいよいよ緊迫し、「除奸」すなわち奸物・井伊を暗殺しようという計画が、水戸藩士と薩摩藩士のあいだで進められました。  政敵の弾圧に成功した直弼は、さらに水戸藩に圧迫を加えます。幕府は水戸藩を威嚇して、安政6年(1859年)に朝廷より同藩に下った勅諚(条約締結断行など、幕政に対して天皇が不満に思っているということが記された書状)の返上を迫りました。「勅諚」とは天皇直々のお言葉のこ...... more
Commented by D-KID at 2007-07-07 23:29 x
そうすると、直弼の非業の死というのは後世の史観から言うとある意味必然性があったというか、革命の引金をより強く引っ張っるのに必要だったのかもしれませんね。


時代の流れを見誤ったという結果かな?と。
晋ちゃんもちょ~っと無関心かなぁ(^^;
Commented by heitaroh at 2007-07-09 11:28
< D-KID さん

そうなんですよね。
彼がやったことは、政策としては間違ってなかった・・・というか、あれしかなかったでしょう。
いつの時代でも、政策担当者としては、元々、選択肢などそれほどない洗濯なのに対し、非政権側にいる人間は、その選択の理を理解しながらも、世論を煽るものなんでしょうね。

ちなみに、晋ちゃん・・・って、高杉晋作ですか?(笑)。
直弼の話題からは、そちらを連想してしまいました・・・。


Commented by D−KID at 2007-07-10 00:09 x
あ、晋ちゃんは同じ長州出身でも、800円を棚上げした方ですよ(((^_^;)
Commented by heitaroh at 2007-07-10 10:29
<D−KID さん

安倍晋太郎?(笑)。
Commented by sakanoueno-kumo at 2013-02-05 21:21
その伊藤や山縣の師である吉田松陰を殺したのが直弼だったわけですから、後世に悪名高き存在となったのは頷ける気がします。
島流しぐらいにしておけば、もうちょっと違う扱いになったような・・・。

直弼の死後50年ほど経って横浜に立った銅像は、除幕式を終えたその夜に首を落とされたと聞きます。
また、第二次大戦中にも天皇に背いた不忠者の銅像として撤去されたとか。
維新後100年ほどずっと悪人扱いだった経緯が、現代の彼の評価にも少なからず影響を及ぼしているように思えます。
Commented by heitaroh at 2013-02-06 13:43
< sakanoueno-kumoさん

井伊直弼を悪名高くしたという点ではむしろ、薩摩の方に意趣があったかもしれませんね。
松蔭の場合は、ご指摘のように一橋派と関わったわけではなく、井伊直弼と直接、対決したわけでもないでしょうから。

でも、木像ならともかく、銅像の首を落とすって結構、大変なんじゃないですか?
全体を壊したほうが早いような(笑)。
彦根藩も、鳥羽伏見の戦いでも幕府側を裏切ってますし、微妙なものがあったんじゃないですか?
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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