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野村證券元会長、奥村綱雄の失意にみる創業者の役割
親愛なるアッティクスへ

野村証券元会長に奥村綱雄という人が居る。
明治36年(1903年)、滋賀県信楽菜町に生まれ、京都帝国大学経済学部卒業後、野村證券へ入社、昭和23年、45歳の若さで野村證券の社長、昭和34年に会長になり、昭和30年代財界では「飛ぶ鳥を落とす勢い」とまで言われた人物である。
その後、昭和43年に相談役に退き、昭和47年、69歳で死去しているが、今では、この人の名を知る者は決して多くはないであろう。
この人が、中興の祖とまで呼ばれる所以は、社長就任後の昭和26年、連合軍との交渉の末、証券投資信託法を実現させ、財閥指定を受けていた「野村」の社名を守り通すことに成功したことにある。
ただ、この人が、そうまでして守り抜いた「野村」の社名だが、私的には、ここに、彼個人の「野村」に対する、ある「想い」があったように思えてならない。
それが、創業家である「野村家」に対する想いである。

昭和5年、奥村が、まだ若い調査部員時代、時の濱口雄幸内閣の目玉政策であった金解禁に際し、これが失政に終わると予感した奥村は、それを逆手に取り、野村の商勢を拡大することを思いつく。
即ち、当時の大蔵大臣・井上準之助の政策に反するパンフレットを書き、それを地方銀行に配布したのである。
ところが、そのパンフレットが、日本銀行大阪支店長の目にとまってしまったことで、奥村は「国賊」呼ばわりされ、さらに、社長が辞表を出す騒ぎにまでなってしまった。
こうなっては、当然、野村證券としては、奥村を陽の当たるところに置いておくわけにはいかず、登録係という座敷牢に等しい閑職に追いやった。
クビにならないだけ感謝しろ・・・と。

このとき、それをじっと見ていた人物がいた。
野村財閥創業家、二代目 野村徳七である。
このとき、野村は、折から、結成された満州国経済開発視察団員に自分の代理として、失意の淵にあった奥村を派遣したのである。
この視察団というのは、単なる業界の懇親旅行ではない。
団長は、当時の大阪商工会議所会頭、副団長は、後に会頭となる財界の雄・杉道助、団員の中には、後に帝人社長となる大屋晋三などもおり、そうそうたる顔ぶれであった。
この中に、一介の中堅社員で、しかも「座敷牢」にいる奥村が抜擢されたのである。

奥村は後に、こう語っている。
「当時、私は34歳。この常識を無視した人選に、血の気の多い私は体が震えるほどに感激した」と。
奥村は期待に応え、満州で慧眼を発揮し、調査の結果、「関東軍第四課に、このまま満州国経済運営を任せておくべきではない」という報告をした。
その結果、第四課に代わって、満州国の経済運営は鮎川義介、高碕達之助らの実業人の手に委ねられることとなったのだが、これにより、「野村証券に奥村あり」と知られるようになり、終戦後、上層部が公職追放になったことで、一躍、社長にまで登り詰めたのである。
このことを考えれば、奥村が「野村」の名前を残すべく、強大な権限を持つ占領軍に立ち向かった背景には、野村は野村でも、「恩人、野村徳七の名を消さないことに対する想い」がありはしなかっただろうか・・・。

いずれにしても、二代野村徳七の度量の大きさと、「しっかり見てくれてたんだ」という、奥村の感激がなければ、野村證券はなかったであろう。
この点は、以前、平太郎独白録 「三代将軍家光、人材抜擢の妙!」の中で述べた徳川家光人事手腕にも共通するものがあるのかもしれない。
                             平太独白
by heitaroh | 2007-02-05 08:51 | 経済・マネジメント | Trackback | Comments(2)
Commented by みち at 2009-07-29 11:43 x
はじめまして コメント欄が開けませんでしたので
こちらから 。。。

親類のもう亡くなった 伯父の事が知りたくて
検索していましたら こちらのブログに出会いました。
お陰さまで 綱雄の社会的な歴史を
垣間見ることができました。
感謝の気持ちで コメントを残しておきますね♪
Commented by heitaroh at 2009-07-29 12:11
<みちさん

はじめまして。

奥村さんの姪御さんに当たられるのですか?
私は世代的にもこの方は本の中の、それも断片でしか知りません。
逆に、この方のことでご存じのことがありましたら、是非、教えて頂きたいほどです。
(もし、よろしければ、記事の末尾の「Tags:奥村綱雄 野村徳七 野村證券」と書いてあるところの奥村綱雄をクリックして頂ければ、あと、幾つか、この方について書いた物が出てくると思いますので、ご覧くだされば幸甚に存じます。)
私が知る限り、大変、魅力的な人物であるように思えるのですが、実際はどうだったのでしょうか?

ちなみに、コメント欄はこちらだけのはずなんで、開けなかった方というのは何か違う物だと思います。
<< 食卓から消えるクロマグロに見る... 池田成彬という男にみる、つまる... >>


国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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