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昭和35年、三原脩の奇跡に想いを馳せた一夜。
親愛なるアッティクスへ

昭和35年、三原脩の奇跡に想いを馳せた一夜。_e0027240_1164138.jpg昨夜は、ここにいました。そうです。
言うまでもなく、日本プロ野球裏面史に名を刻む、あの!博多の老舗水炊きやです。

昭和35年、智将、三原 脩を監督に戴き、前年の最下位から一転、セントラル・リーグの優勝を果たした大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)・・・。
その大洋が次に日本シリーズで戦う相手となったのが山内和弘、榎本喜八、田宮謙次郞、葛城隆雄などを擁し、ミサイル打線と呼ばれた強力打線でパシフィック・リーグを制した大毎オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)、率いるは38歳の若き勝負師、西本幸雄
下馬評は、大毎の圧倒的有利・・・。

前年の最下位から一転、翌年初優勝を果たした球団としては、昭和50年の広島や昭和51年の巨人などの例がありますが、それらと当時とでは大きく状況が違っていました。
何が違ったかというと、当時は、ドラフト制の施行前ですから、巨人のような常勝球団と大洋のような弱小球団とでは、同じプロ球団と呼べないほどに歴然たる実力差があったわけで、その大洋が巨人や阪神、中日などを抑えて優勝するということは、まさしく、奇跡というに相応しいことだったわけです。
このとき、「超二流選手」という言葉に代表される三原の名采配は、「三原魔術」とまで呼ばれたと言います。

リーグ優勝が決まった瞬間から、三原監督は動いていました。
大洋のリーグ優勝が決まった当日の祝賀会でのこと。
三原監督は、当時の正捕手・土井 淳に近づくや、そっと、一枚の固い紙切れのような物を握らせます。
土井がよく見ると、それは、一枚の博多行き国鉄特急券・・・。
水炊きでも食ってきてくれ」と。
土井は、周囲の喧噪をよそに、ひとり、密かに祝賀会を抜け出し、指定された特急に乗り込みます。

当時は、新幹線など無い時代です。
松本清張原作の映画に「張り込み」というのがありますが、この中で、犯人を追いかける刑事たちは、横浜から国鉄に乗り込み、丸一日以上をかけて、犯人の潜伏先である九州の佐賀に到着します。
(そう言えば、私が子供の頃も、祖父母が東京に行くときは寝台車でしたね。)

昭和35年、三原脩の奇跡に想いを馳せた一夜。_e0027240_117351.jpg土井を乗せた特急列車が付いた先は国鉄博多駅

改札を抜けた土井を二人の男が出迎えます。
二人は、そのまま、軽く目配せをすると、土井を九州一の繁華街、中洲の水炊きやに連れて行きます。
この二人こそ、大毎と同じパ・リーグの球団で、福岡博多に本拠を置く西鉄ライオンズのエース、稲尾和久と、正捕手・和田博実のバッテリー。
そこで、二人は、水炊きをつつきながら、大毎打線の攻略方法を事細かに教えます。
三原は、前年まで西鉄ライオンズの監督を務めており、二人としては、恩師・三原に何とか勝って欲しいという一心からのことだったと言います。

当時は、今と違い、日本シリーズ対戦前に相手リーグの他球団の選手などから、情報を仕入れるということは殆ど、行われていなかったといいます。
「四番の山内サンには、2ナッシングになったら、1球遊ばずに、三球勝負に行ったら割りと見逃す」などという、彼らにとっては最高機密もあったと言いますから、その想いが伝わってくるでしょう。

その結果、昭和35年の日本シリーズは、終わってみれば、大洋の4勝0敗で幕を閉じ、しかも、4勝すべてが「1点差勝ち」というものでした。
特に、打てない打線に業を煮やした西本監督は、第2戦の一死満塁でスクイズを仕掛けたものの、シーズン中は強力打線で打ち勝ってきた選手たちは、スクイズなどやったことがなく、その結果、最悪のダブルプレーに終わったことで、戦後、その采配を大毎の永田雅一オーナーに批判され、西本は責任を取る形で監督を退任。
そして、奇しくも、この対戦から9年後の昭和44年、三原が近鉄の監督としてチーム初優勝に挑んだとき、阪急の監督としてそれを阻んだのが西本であり、奇しくも、それから10年後の昭和54年、三原のなしとげられなかった近鉄の初優勝を実現することになったのも西本であり、そして、奇しくも、この年の日本シリーズで、再び、スクイズのサインを出し、「江夏の21球」の前に押さえ込まれ、日本一になれなかった「悲劇の名将」となったのが西本でした。
もし、昭和35年のこの水炊きやでの一夜がなかりせば・・・などと、柄にもなく、想いを馳せたのは、風情ある店の雰囲気に酔ったからだったでしょうか。
                                  平太独白
by heitaroh | 2007-01-30 10:34 | スポーツ | Trackback | Comments(2)
Commented by D-KID at 2007-01-30 22:53 x
野球はドラマですね、とある試合で解説者がふと洩らしたとか…

西本さんはよく『名将たれど日本一を逃した男』みたいな言われ方をされますが、こういう裏の一件があったとは知りませんでした。
このやり取りって言うのは三原監督が日本一奪取の思いから考え出したんですか、それとも稲尾さんのオリオンズ打倒の悔しさから出たんですかね?
Commented by heitaroh at 2007-01-31 12:19
<D-KID さん

いや、それは間違いなく、三原さんですよ。
三原脩という人は、今の日本のプロ野球の戦術の多くをひとりで作り出したと言われている人です。
当て馬とか、サイン盗みなども、すべて、この人だそうです。

とあれば、シリーズ前に、情報収集に動くというのも、考えそうなことでしょ。
実際、このとき、三原さんは、当時、南海の主力選手だった、野村克也氏のところにも電話して、色々、話を聞いているそうですよ。
ノムさんも、「自分も、遂に、三原さんから、話を聞かれるほどの選手になったか・・・」って、自信になったと言ってましたから。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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