ローマ帝国衰退に見る権力継承の意義その4 野望。

親愛なるアッティクスへ

またまた、昨日の続きです（笑）。

混乱を収束させるべく、有能な軍人出身の皇帝が帝位につき、期待通りの働きをしますが、彼らは、たびたび、実にあっさりと、部下によって殺されてしまいます。
彼らは、司令官時代は、このような目にはあわなかったわけで、その辺を考えれば、詰まるところ、マキャベリの言うところの、「君主は愛されるより恐れられよ」というところになるのかもしれませんが、それ以前に、やはり、「なぜ、あいつなんだ？！」という部分が大きかったと思います。

つまり、彼らは、軍人としての能力には敬意をもたれていても、皇帝としては敬意はなかった・・・、つまり、「権限」はあっても「権威」というものに乏しかった・・・ということがあったのではないでしょうか？
では、権威とは何なのか？
これこそが、「何であいつなんだ！」ということへの答え、つまり、「存在理由」だと思います。

皇帝により任命された司令官というものは、「何であいつなんだ！」と言われても、「仕方ないじゃないか、皇帝が決めたことなんだから！」と言えるのでしょうが、いくら有能でも、昨日までの同僚が、突然、自分で手を挙げて皇帝になったのでは、「何であいつでないといけないのか！」という「存在理由」がないわけです。
となれば、「自分」ではだめで、「彼」でないといけないというものは、元々、存在しないわけですから、２．２６事件の時のように、「やつが死ねば、次は自分だ！」という思いから、誰か、青年将校を焚きつけるような人間が出てこないとも言えないでしょう・・・。
となれば、皇帝になるには、皇帝になるなりの「存在理由」がいるわけです。
では、皇帝になる為の「存在理由」とは何か？と言えば、それが、ここまで、くどくどと述べてきましたように、「血縁」だと思うのです。
「何であいつなんだ！」、「仕方がないじゃないか！皇帝の娘と結婚したんだから！」と言うものです。

では、翻って、現在のアメリカ大統領の「存在理由」というものはどうなのか？と考えてみました。
国民の民度が、この２０００年の間に上がったから、次期大統領が血縁でなくとも、大統領に「存在理由」を与えることを、皆、暗黙の了解としているのか・・・。
確かに、そういう側面もあるのかもしれません。
フランス革命以降、民衆の間に、そういう考えが浸透し始めたのも事実でしょうし、世界世論が西洋主導とはいえ、民主主義という物にお墨付きを与えているのも、また、事実でしょう。
が、それよりも、権力者に「権威」を与えるためには、皆が納得する「存在理由」が必要だと考えれば、ローマ皇帝の「血縁」に代わって、今のアメリカ大統領にある存在理由、言い換えるならば、「権力を持つに当たっての正当性」は何か？
それが、「選挙」なんだと・・・。
すなわち、選挙とは、単に一番、有能な人を選ぶだけの行為ではなく、選ばれた人に、「なぜ、あいつなんだ！」という正当性を与えるものでもある・・・ということに思い当たったのです。
でも、ここで、また、壁にぶつかりました。
ローマ世界には、選挙という概念が存在しなかったわけではないからです。

ローマでも、帝政に移行する前は間接選挙制であったにせよ、2人の執政官を選挙で選出して統治に当たらせていたわけで、それ以前にも、形は多少違っても、古代ギリシャでも選挙という物は、厳然として、存在しており、それほど、ローマ人にとっても馴染みがないものではなかったからです。

明日に続きます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平太独白