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私的壇ノ浦の戦い考察 その2 平家新首都・九州山鹿城
前回の続きです。

まず、当時、なぜ、平家彦島にいたか・・・ですが、この時点で、既に、源氏軍総司令官・源範頼に、北部九州側の拠点を攻略されており、そのため、彦島が、日本で唯一、平家が地面を踏める場所となっていたということがあります。
つまり、もう、「詰んだ将棋」で、勝負はついていたということですね。

私的壇ノ浦の戦い考察 その2 平家新首都・九州山鹿城_e0027240_18314977.jpg
(↑平家方北部九州拠点、山鹿城よりの景。かつては遠賀川の河口に睨みを利かせた城も、今では海岸線も伸び、往時の雰囲気を感じさせるのは、辛うじて、この一枚のみ。城主・山鹿秀遠は、寿永2年(1183年)の平家の都落ちの際は、安徳天皇を始め平家一門を迎え入れ、範頼に攻略された後は、彦島へ扈従最後まで平家に忠節を尽くし、壇ノ浦の戦いでは平家方の主力として奮戦しています。

そういう状況であれば、おそらく、彦島に逼塞を余儀なくされた時点で、清盛以来の郎党も平家を見限って逃亡する者が相次いでいたと思われ、兵力はわずかなものとなっていたはず。
つまり、この時点で、もう、両軍には致命的なまでの兵力差が生じており、そのことは、平家が島全体での防衛を諦め、海に討って出ることを前提に根緒城を築いたことが、何より、雄弁に物語っているのでしょう。

で、私が疑問に思うのはこの点で、まず、なぜ、平家は壇之浦に討って出たか・・・です。
結論から言えば、やけになっていたとしか思えません。
兵力が乏しく、到底、彦島での防戦は無理と思ったとしても、再び、鹿島城へ戻るという選択肢もあったでしょう。

私的壇ノ浦の戦い考察 その2 平家新首都・九州山鹿城_e0027240_12283867.jpg
(↑鹿島城よりの景。今は水田が広がっていますが、往時はここは入江だったと思います。)

大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」でもわかるように、源氏もそうそう一枚岩でもなく、御家人たちをまとめていくのは大変だったようですね。
そのことは、兄、源頼朝以上に、現場にいる、範頼、義経兄弟の方が身に染みてわかっていたはずです。
さっさと決戦を挑んで、鎌倉へ凱旋しないと、軍が崩壊する・・・と。
もちろん、鹿島城にも抑えの兵力は置いているでしょうが、来るかどうかもわからない空き城に、早く帰って恩賞に預かりたい坂東武者を張り付けておくことはなかなか難しい相談で、おそらく、形ばかりの兵力しかなかったでしょう。
そして、戦果もなく、関門海峡を船に揺られて行ったり来たりするだけの状態が続けば、不満が高まることは有り得ることで、何より、渡海のための船がそう都合よく調達できなかったでしょう。

ただ、一方の平家方は女子供も同伴の、「武田勝頼天目山的」な状態であれば、再び、鹿島城へ!と言ったところで、「もう、よろし。皆で、大相国(平清盛)様の元へ参りましょ」となったのではないかと。
そう考えれば、平家は討って出るにしても、なぜ、わざわざ、関門海峡を越えて、壇ノ浦へ進撃したのか?ということの説明も付きます。
関門海峡という所は、一見すると川としか思えないほどに狭く、従って、流れは速く、かつ、複雑で、今も、水先案内人が乗船しないと航行できないような難所で、そのことは、少し前に、自衛隊の軍艦がどこかの船と衝突して、物凄い炎が上がったことでもわかるでしょう。

私的壇ノ浦の戦い考察 その2 平家新首都・九州山鹿城_e0027240_12122363.jpg
(↑門司側旧帝国軍砲台跡より見る関門海峡。)

であれば、平家としては、なおさら、大軍を狭隘地に誘いこみ、大軍の利点を生かせないようにして戦闘するのが兵法の理。
ましてや、敵は海戦に不慣れな源氏軍であり、複雑で早い潮流の関門海峡であれば、源氏軍は船にしがみついているだけで精いっぱいだったはず。

考えられるのは、範頼率いる源氏陸上部隊からの遠矢を避けるために、陸から離れた部分、つまり、海峡が広くなった部分で戦う必要があったということでしょう。
が、それには、範頼が壇ノ浦に来ているということを平家が知っている必要があります。
電信設備もない時代、リアルタイムで源氏の部隊の正確な位置を知ることは、平家どころか、別動隊を率いる源義経にも、不可能だったはずで、(陸上を源氏に押さえられている以上、手旗信号や狼煙も不可能だったでしょう。)それどころか、義経は、不仲の兄、範頼に作戦意図を伝えてきたようにも思えません。
範頼軍は彦島の対岸にいて、平家水軍が関門海峡側に向けて出撃するのを見て、東に移動したとも考えられますが、大部隊の移動はそう簡単ではなく、もし、海峡の手前で平家軍がUターンして戻ってきたら、源氏方はもうこれだけで大混乱に陥ったはずで、少し無理があるような気がします。
私的壇ノ浦の戦い考察 その2 平家新首都・九州山鹿城_e0027240_18035164.jpg
(↑根緒城よりの景。現地は一般には開放されておらず、グーグルマップからの景。いやはや、便利になったものです。で、手前は三菱造船所の埋め立て地。左のアーム二本の間に見えているのが関門海峡。ここからだと、そこに源氏水軍が集結しているのが見えたと思われ、逆に、右手から伸びてきた九州側山塊の陰になって、範頼軍の壇ノ浦着陣は見えないということになります。ちなみに、右の海中にある島が海の難所・巌流島

おそらく、範頼軍は、鹿島城から移動してきて、たまたまそこにいたのだと思います。
あるいは、このときの水軍の主体は豊後(大分県)だったとも言いますから、本州側へ渡海するために、ここに集結していたのかもしれません。
で、それを見た義経が、ここを決戦場にしようと思ったということではなかったかと。
範頼としては、ここまで来て、義経が渡海のための船を寄こさず、その船を使って、海上決戦を挑もうとしているスタンドプレーに困惑したでしょう。

次回に続く。
                平太独白

by heitaroh | 2022-06-16 07:33 | 歴史 | Trackback | Comments(0)
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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