実はここのところ、立て続けに講演の依頼などを戴いたもので、結構、バタバタとしており、なかなかこちらまで手が回りません。ふと気づいたら、5月もあと1週間で終わろうとしており、何か書かなければ史上初の更新ゼロ月となってしまう・・・と思い、寸暇を惜しんでパソコンに向かっております。
で、先日、たまたま、講演原稿作成の合間にテレビをつけたらNHKドラマ「ロング・グッドバイ」なるものをやっているのを見て、途中からだったのですが、まあ、私が好きなレトロ的なものということもあり、以来、すべて見てしまいました。
まあ、犯人もオチも早くからわかってましたけど、このドラマは、そういう味を楽しむのではなく、むしろ、香りと余韻を楽しむ物なんだろうなと。
(うっかり最後まで気づかなかったのが、悪の親玉にはモデルがあるということ。もろ、正力松太郎。NHKとしては日テレの創始者こそ悪の親玉というのもわからないではないのですが(笑)、ここまで露骨に出すということは思わず、本当に類似のことがあったんじゃないかって気に・・・。)
で、ハードボイルドってやつはドラマでしか触れたことがないので、原作者であるレイモンド・チャンドラーって人の本も読んでみようかと考え中。
名前は聞いたことがあるんですけどね。
まあ、長らく、楽しむ為の読書という物をやった記憶が無いもので、たまにはいいか・・・と。
で、先日、友人から「21時まで時間が空いたから仕方ないから遊んでやる」と言われ二時間ほど飲んだのですが、その帰途、ちょっちょっと書いちゃいました(笑)。
以下、ハードボイルド的に・・・(笑)。
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いつものように帰途につこうとジャケットを手にした瞬間、電話が鳴った。
電話の向こうからは相棒のサカキバラのいかれた声。
「今夜、9時まで暇になったんすけど」。
俺の第六感がビンビンと音を立てて鳴った。そっちへ行ってはいけないと。
俺は自分に苦笑いを返しただけで相棒の元へ向かう。
そこで待っていたのは.期待通りのデインジャラスな展開だった。
サカキバラはいつものようにバーのカウンターの中央に陣取っていた。
おいおい、ハードボイルド的には隅っこにいるもんだろうという俺の願いも虚しく相棒(やつ)は切り出した。
「依頼のうちにも入らないような依頼なんすけど...」。
ヤバい話の時のやつの常套句だ。俺の中の危険信号がけたたましく音を立てて鳴った。
これ以上はヤバいと。俺はそいつから耳を塞ぐように、いつものハーパーを喉に滑らした。
依頼の内容はこうだった。長年飼ってた♀猫に逃げられた飼い主が猫を探して欲しい...と。
俺は逃げた猫の行き先はやつが知ってるであろうことに気付きながら、その依頼を引き受けることにした。
それが俺の俺なりの主張だと自分に言い聞かせながら。
「ただ...」
やつは9時までと言いながら9時半をとっくに過ぎているのに、気にする風もなく、おもむろに切り出した。
いよいよ、俺の中の赤信号が勢いをつけて鳴り響いた。
「お休み、ハニー。良い夢をご覧」。サカキバラはそう言って腕の下で眠る天使に別れを告げて来たらしい。
「猫を探すだけなら何もおまえが来る必要はない。俺一人で十分だ」。
やつにはそう言ったのだが、やつもやはり男だった。依頼の困難さはやつが一番よく知っていたのだろう。
珍しく時間きっかりにお越しになった。
「いいって言っただろうが」。
俺がそういうと、やつはおもむろに口を開いた。
「とりあえずハイボールをくれないか」。
おいおい、タメ口かよと苦笑いしながら、俺は冷蔵庫から炭酸水を取りだし、手元にあったハーバーで無造作に注ぎ入れた。
やつは、突き出されたグラスを無言で口に運んだ。
俺も「飲んだらとっとと行くぜ」と行間に「相棒」という言葉を存分に滲ませながら言った。
これが、俺なりの親愛の情ってやつの表し方だ。やつはあさっての方向を見ながら頷いた。
数分後、俺は険しい表情の榊原を助手席に置きながら、愛車のシポレーのエンジン音を聞いていた。
いつだったか、やつは言ったことがある。
「しみったれた三日月っすよね。俺はこういうのが大っ嫌いなんすよ。光るんならもっと煌々と光れっつうんですよ」。
やつが過去に何を見たのか俺は知らない。だが、何となく、やつがそう言う気持ちはわかった。
俺にもそういう時代がなかったわけではい。
だが、残念なことに俺はやつの感傷に付き合うほどヒューマニストでは無かった。
「それで」。
我々の業界の便利なワードである。人はこう言われると、色々と聞いてなかったことまで懇切に話してくれる。
榊原は俺的に最高のリズムを刻んでいるかのように思えていたシボレーのエンジン音に異議を唱えるように口を開いた。
「なあ、俺たち、どっちが先にしぬんだろうな」。
完全にタメ口になっている相棒に対し、俺は最小限の言葉で答えた。
「おまえだ」。
やつは特に考えるふうもなく、「だよな」と答えた。完全にタメ口である。
そうこうするうちに我々は依頼者、つまり猫の飼い主の下へと導き寄せられた。
もう、俺の危険信号も愛想をつかしたのか何も言わなかった。
続く・・・。やつは危険だ。
平太独白