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大王製紙御曹司の不祥事に思う昭和5年の九軌不正事件
親愛なるアッティクスへ

今、大王製紙の信じられないような不祥事が取り沙汰されていますよね。
この事件を聞いて、思い浮かんだことがあります。
世界恐慌の翌年、昭和5年(1930年)に今の福岡市の大手私鉄、西日本鉄道の前身である九州電気軌道会社で発覚した巨額不正事件、「九軌不正事件」です。
たかが、地方の私鉄の不祥事じゃないか・・・と言うなかれ、この事件で使い込まれた金額は当時の金で5千万円・・・、今の金にして1,500億円と言いますから、井川意高大王製紙前会長容疑者が使い込んだ金が、たかだか100億円であることを考えても、この事件の特異性が見て取れるでしょうか。
この事件の主役となったのが、当時の松本松蔵専務で、この人物は元々、大阪財界の巨頭・松本重太郎の養子にして、妻は明治の元勲の一人である松方正義元総理(公爵)の娘、アメリカ留学から帰国後、鐘紡社長・武藤山治の秘書を経て、創立間もない九軌に迎えられたという絵に描いたような華麗な経歴の持ち主であり、となれば、当然、「汽車は一等、料亭は一流、門司と小倉に別邸を構え・・・」という暮らしだったとか。

ところが、どういうわけか、それほどの人も羨むような人が人に顔を見せたがらないという妙な性癖があったらしく、読売新聞発行の福岡百年という古い本によると「松本邸の玄関は、一年中閉ざされていた。出入りは、裏口からして人力車にも深くホロをかけ、たまに電車に乗っても、新聞で顔を隠すほど。顧問弁護士すら、松本邸に出入りを許されたのは十年間にたったの二度限り」という状態だったそうで、ついた異称が「覆面の紳士」だったとか・・・。
10年間に渡って続けられていた不正も、初めは、「自社株をつりあげようとした」、いわば「愛社精神」だったものの、それでも、積もり積もって会社の持ち株の半分にも達していたといいますから、やはり行きすぎだったでしょう。
一方では、美術品収集にも惜しみなく費やされ、東京・上野の国立博物館を借りきってコレクションを披露したことからその名は美術界に知れ渡っていたそうで、この辺り、カジノで持てはやされた井川容疑者と共通したものがあったのかもしれません。
もっとも、同容疑者の場合と違い、美術品は残りますからこの点は幸いだったでしょうが。

事件は、松本が九軌の持ち株を手放したことから九軌の経営に参画していた麻生太吉・九州水力電気社長(麻生太郎元総理の曽祖父)が使い込みの存在を知ったことで発覚。
肝を冷やした麻生は井上準之助大蔵大臣に会って善後策を協議、結果、日銀、興銀が動いて1,400万円を調達、他に担保物件や松本の資産を売り払って何とか非常事態を切り抜け、10ヶ月を経てようやく最後の一枚の手形を回収したとか・・・。
同書によると、「病床に倒れた麻生のあとをひきついだ村上巧児専務」の存在が大きかったそうで、「大阪で一度に八百万円も返済したときは、大阪市中の金融が緩慢になり、手形の日歩利子までくずれかけた。以後の手形償還は一時にやると怪しまれるからと、半分か三分の一ずつ払い込むなど苦労の連続」だったとか。

なお、事件のその後について触れておくと、松本は逮捕され、裁判では執行猶予の判決を得たものの、まもなく病に倒れて他界、「かつてのハレムは三間だけのあばらやに転落。葬儀の弔問客に出すざぶとんすらなく、失礼をわびる夫人の顔にも、元公爵の子女の面影をみることはできなかった」状態となり、一方で、難局を切り抜けた九軌は330人の人員整理ベースダウンで合理化を推進、新社債の募集にも成功し、昭和10年には無配を続けていた配当も復活したそうですが、結局、巡り巡って馬鹿を見たのは合理化で犠牲となった庶民であったわけですね。
                                         平太独白
by heitaroh | 2011-12-03 18:22 | 経済・マネジメント | Trackback | Comments(2)
Commented by 芙蓉 at 2011-12-03 23:47 x
平太郎様

気が付けばいつの間にか師走、お久しぶりです。
お元気でご活躍のご様子、何よりです。
私も、仕事に追われ、ブログ更新、
サボって放置の毎日ですが、以前に比べ、
体力、気力が落ちたような。
平太郎さんはただただ多忙すぎて、お時間がないのでしょうね。

さて、このたびは福岡ソフトバンクホークス、まずは日本一!
おめでとうございます。
今年ほど、野球を見なかった年はありませんが、
それでも、ソフトバンクの久々の優勝は、嬉しく思いました。
本当に良かったですね。

ところで上の↑大王製紙の事件は何とも残念!
愛媛が故郷のワタクシは、三島、川之江の大王製紙といいましたら、誇れる企業だったものですから、悲しいかな、
このお粗末な事件、恥ずかしい限り、残念で仕方ありません。
エリエールが泣いている。
お金が人を変え、精神を狂わす。
上質の豊富な水を生かした製紙は、本当に素晴らしかったのに。
というのが、正直な感想です。
でも、これからに、期待したいです。

寒さもこれからが本番。
ご自愛されてお過ごしくださいね。

ブラピの「マネーボール」面白かったですよ。
Commented by heitaroh at 2011-12-06 16:51
< 芙蓉さん

お久しぶりです!
当方も、多忙さゆえ・・・という部分もあるにはあったのでしょうが、やはり、始めてから既に6年を過ぎ、以前に比べ、意欲が衰えている部分は否定できないと思います。
ぼちぼち、辞め時なのかもしれませんね。

私も今年は地元に居なかった期間が長すぎましたので、(先日の日本シリーズが今年初めての観戦でした。)殆ど見なかったに等しい状態だったのですが、それでも、久々の日本一には感極まるものがありました(笑)。

で、大王製紙ですが、私は創業者一族が四国の出身とも知りませんでしたが、四国中央市にあれほどの豪邸があるということにも驚きました。
大王製紙は「聞いたことがあるかなー」という程度だったのですが、エリエールは知っていますから。
彼も、50歳前ですでに副会長だったということ自体がすべてを物語っているのでしょうが。

マネーゲーム・・・じゃなかった、マネーボール・・・、興味はあるのですが、何だか最近、食わず嫌いをするようになってしまったみたいです。
<< 東日本大震災・北関東派遣見聞録... 恣意と独断で選んだプロ野球歴代... >>


国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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