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空海が空海である所以
親愛なるアッティクスへ

私は以前、博多港から韓国の釜山まで玄界灘で行ったことがあります。
と言っても、ジェットフォイルでのたかだか3時間弱の旅なのですが、それでも波が高い日はまるでジェットコースターで、お世辞にも船酔いに強いとはいえない身としてはひたすら、身を横たえて時間が過ぎるのを待つという状況でした。
が、私が感慨を得たのは玄界灘のこの荒波についてではなく、その窓外の風景でして、博多港を出航して船中にある間、窓外には驚くことに突起物と呼べる物は壱岐対馬(の付近)だけで、そこ以外には、島影はおろか、しがみつく岩影すらなく、360度、見渡す限り、ひたすらの二種類の「色」しか存在しなかったんですよ。

通常、我々にとっては拠って立つ足下という物が無い危うさ・・・、人間などという高尚な生き物の思惑も、情念も、欲望も、実に儚さを感じさせるものであり、すべてはそこに「陸」があることが前提であるということを感じずにはいられませんでした。
と、まあ、しばらく、感慨に耽っていた私は、「陸海空と言いながら、ひたすら陸がない空と海だけの世界・・・。陸海空ならぬ海空か・・・」と呟いてみて、「あ、弘法大師空海『空海』とはここから来たんだ・・・」と、思わず、ハッとしました。

空海は実際、留学僧として遣唐使船で大陸に渡る際、同様に船上の人となった経歴があります。
ただ、空海の当時は、私が乗ったようなジェットフォイルなどあるはずもなく、彼は何日もこの「空と海」だけの寄る辺ない風景を眺めていたに相違ないであろう・・・と。
そう考えると、彼が自らを「空海」と名乗ったのがわからないでもないような気がしました。
秀才と呼ばれ、留学僧にまで選ばれたこれまでのことなど、何の根拠もない儚い夢物語のように思えたのではないか・・・と。
(無論、座礁の危険性を考えれば、わざわざ、岩礁があるような航路を通るはずもなく、私が見た光景はたまたまの物だったのかもしれませんが、その辺の条件はいつの時代も変わるはずもなく、航海という点では空海の当時も一緒だっただろうと思います。)
彼が、いつの時代から空海と名乗っていたのか、宗教にはとんと理解のない私には知るよしもないことではあるが、これが、なぜか、そう強く実感した瞬間でした。

そう考えれば、空海に先立つこと150年の昔にを率いて海を渡り、白村江唐・新羅連合軍の前に大敗を喫した当時の日本軍の置かれた状況は元寇の例を考えるまでもなく、行って帰るだけでも至難の航海であるのに、それがましてや、戦場で壊滅的打撃を受けたということであれば、おそらく、当時は、西日本から働き盛りの男性の姿は消えてしまったのではないでしょうか。
(先の大戦後、巷では、「男一人に女ダンプ一杯」などと言われたことを想起するとわかりやすいでしょうが、状況はあるいはもっと深刻だったのかも。)
そう考えれば、この戦いの後、日本防衛のために東国から北部九州に送り込まれた防人という徴兵集団は、あるいは男手の不足を補うための入植という一面も持っていたのかもしれません。
                                         平太独白
by heitaroh | 2011-01-08 17:59 | 歴史 | Trackback | Comments(4)
Commented by sakanoueno-kumo at 2011-01-09 00:14
先日、間寛平さんが福岡にヨットで入港しましたが、空海の境地に近いものを感じたかもしれませんね。
Commented by mohariza6 at 2011-01-09 01:35
20年前後ほど前、何回か、対馬、隠岐に出張で行ったことがありますが、
特に対馬などは、流刑の島で、
当時は、行くのも大変で、そこから脱するのも大変だった、ことは、
とても、ジェットホイルや大型船舶に乗れる現代人には、想像できませんでした。

ましてや、飛行機で行ったなら、そこが異国など、と云う感慨は無いのでは?と思います。

しかし、まだ、異国同士、いがみ合うのは、
人間は、「愚か」と云うコトでしょうか・・・・
Commented by heitaroh at 2011-01-09 12:07
< sakanoueno-kumoさん

あの人も、広い陸地をずっと駆け回ってきたわけでしょうが、その最後が玄界灘だったというのも、これまでとは違う、また、何か感慨のようなものがあったのかもしれませんね。
Commented by heitaroh at 2011-01-09 12:13
<mohariza6さん

隠岐?ですか?壱岐じゃなくって?
私は隠岐はまだ行ったことがありませんが、こちらも相当に凄い所なんでしょうね。
まさしく、流刑の地で・・・。

対馬については私もまったく同様のことを思いました。
昔の防人など、ここに連れてこられたら、逃げようがないだろうな・・・と。

昔、明治の頃くらいに、漁師が手こぎ舟で玄界灘を渡ったけど、どこかに国境の赤い線があるのかなと思っていたら、どこにも無かったと言ってました(笑)。

人間は光合成をして酸素を供給してくれる樹木が最後の一本となっても、それを切り倒してしまわずにはいられない愚かな生き物です。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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