人気ブログランキング | 話題のタグを見る


「坂の上の雲」での定見無き者は長じて読めの是非 中編
親愛なるアッティクスへ

昨日の続きです。

「新聞はおまえにはまだ早い!己の意見も持たない者が他人の意見を読むと害になるばかりだ!こんな物は長じてから読め!」という秋山好古の言葉・・・。

これは、実に色々なことを考えさせてくれます。
まず、真っ先に思い浮かべたのが、昨今のネットなどに氾濫する非常に短絡的な意見の数々・・・。
以前から申し上げていることですが、過去の出来事というのは当事者で無い限り、人から聞くか、本で読むかしかなく、となれば、本当のところというのは結局、誰にもわからないことで、であれば、そこに「本当はこうだったんだ」と書いてあったとしても、「相手側の言い分」にも虚心に耳を傾けるなど、一種の平衡感覚をもって、決して盲信することなく、自分なりの真実を模索することが必要なんですよ。

その点で、司馬史観というものは、以前から、平太郎独白録 : 幕末のアイドル竜馬ならぬ坂本龍馬の実相などでも指摘してきましたとおり、「司馬遼太郎という人のあまりにも良い仕事をしすぎたがゆえの弊害」というものがあり、(司馬氏自身、生前、代表作、「竜馬が行く」を教科書で使いたいという打診があったとき、「とんでもない!あの作品は、実在の『龍馬』ではなく、あくまで、私が作り出した『竜馬』なんだ」と説明したと言われているように、自身、自らの虚影(巨影?)が一人歩きしようとすることへの警戒感があったようです。)つまり、司馬文学自体、自分なりの定見・・・、平たく言えば、小説と事実の区別が付くようになって読むべきだ・・・と。
・・・などと偉そうなことを言っても、私自身、司馬遼太郎文学にハマッていた十代の頃などは小説と史実の区別が付いていない完璧な司馬史観の信者でしたし、それは、毛沢東語録を手に「造反有理」を唱えていた紅衛兵と何ら変わりなかったでしょう。
(ただ、比較的幸いだったのは、同時に、元帝国陸軍参謀で兵法評論家であった大橋武夫氏の著作も同じくらい読んでいたことでしょうか。こちらは割と実学的でしたから。)

この点、若き日の西郷隆盛は、諸藩の士と交わる中で、とかく、「まずイデオロギー有りき」に傾こうとしたことから、その主君にして師でもあった島津斉彬はこれを憂慮した・・・と言われておりますが、その一方で、斉彬死後、島流しになった西郷は、小人が読むと佞人になるとして警戒されていた「韓非子」を持っていったとか。
西郷はそれまでのイデオロギーありきがあっさりと潰されたことから、改めて、斉彬の訓戒の意味を噛みしめたのでしょう。

で、その一方で、「長じてから読め」という部分には、昔、見積もりを作っていたとき、当時の上司から、「何をぐずぐずしている!こういう物は勘で作るんだ!」と叱責されたことを思い出します。
そのときは、何も言いませんでしたけど、内心、「じゃあ、その勘を養うのに何年かかるの?」、「今は少なくとも勘で作るべきじゃないでしょ」、「ていうか、勘を養うためにも今は資料とにらめっこするべきないんじゃないの」・・・と。
であれば、「長じるために、こういうのも読むべきなんじゃ・・・」ともいえるような気が(笑)。

後編に続きます。
                                         平太独白

by heitaroh | 2009-12-01 18:49 | 思想哲学 | Trackback | Comments(4)
Commented by sakanoueno-kumo at 2009-12-02 14:30
>「長じるために、こういうのも読むべきなんじゃ・・・」
そうですよねぇ。己の意見を持たないから、他人の意見を拝聴して、やがて己の意見を持てるようになるために自己研鑽する。ほとんどの人はそんなもんでしょう。
司馬氏の作り上げた「龍馬」ならぬ「竜馬」は、学問に乏しく、故に偏見がなく「やわらか頭」で、幕末の単純志士とは違った独自の発想におよんだとあります。天才型の人間には、ときに学問は妨げになるとも・・・。
実際の坂本龍馬が本当にそんな人物だったかはわかりませんが、天才じゃないいわゆる凡人が、「長じるために学ぶ」のは仕方がないところでしょう。

ちなみに私は、四十を超えた現在でも「司馬史観」の信者です。「史観」というか、もっと単純に、氏の描く人物像が好きです。氏の人間の良いところを描こうとする視点が好きです。
Commented by heitaroh at 2009-12-03 16:15
<sakanoueno-kumoさん

まあ、ひよこが生まれて初めて見た物を親と思うように、早い段階で何を与えられるかによって違ってくるのだとは思いますが、すでにその時点で、与える人の主観を植え付けられているわけで・・・。
難しいところだろうとは思いますが、やはり、最初は与えてくれる「人」を見るところから始めるしかないのでしょうね。

竜馬に関しても、あの小説だけしか読んでなくても、十分、龍馬に想いを馳せることは出来るのでしょうが、(実際、龍馬の活躍の基盤の多くは勝海舟の人脈によっているわけで・・・。)それも長い思索の蓄積があってのことだろうと思います。

本田宗一郎さんなどは、本には過去のことしか書いてないと言って、本を読まなかったと言われてますよね。
まあ、その辺はタイプによるとは思うのですが、やはり、それは少数派で、かつ、技術屋等という自分だけのステージを持っている場合に限られると思われ、一般の人が真似するのは大変危険だと思います。

>ちなみに私は、四十を超えた現在でも「司馬史観」の信者です

早く社会復帰されることを祈ります(笑)。
Commented by at 2010-01-25 23:33 x
>「新聞はおまえにはまだ早い!己の意見も持たない者が他人の意見を読むと害になるばかりだ!こんな物は長じてから読め!

これは日本人の多くに言い聞かせるべき言葉でしょう。
テレビなどマスコミに踊らされている現状を。
テレビができた時代、一億総白痴化という言葉も生まれましたね。

音声(テレビやラジオ)から他人の意見がわんさか流れてきますからね。

だから日本は大衆迎合主義といわれるのでしょうね。

Commented by heitaroh at 2010-01-26 17:43
<無さん

概ね同意見です。
私はアメリカが日本人に民主主義を与えたのは子供に大人の財布を持たせたような物だと思っておりますので。

ただ、その辺は日本人に限ったことではないようにも思います。
ヒトラーとゲッペルスに躍らされたドイツ人や、油まみれの鳥の画像を見て湾岸戦争に傾いたアメリカ人も然りでしょうから。

それに、その論に立ったならば、新聞も読まずにどうやって、他者の意見に惑わされない己の意見(見識)を形成するか・・・、
また、己の見識が一定の物に達したことはどうやって判定するのか・・・などという問題が出てくると思います。

それに、世間とは愚かなようで意外に利口な一面を持っているときもあります。
なかなか、一概に決めてかかれない難しいところだと思いますが
<< 「坂の上の雲」での定見無き者は... 「坂の上の雲」での定見無き者は... >>


国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
ライフログ
最新のコメント
sakanoueno-k..
by heitaroh at 19:20
おっしゃる通りですね。 ..
by sakanoueno-kumo at 14:59
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:01
堀で防御を固めたような大..
by sakanoueno-kumo at 15:36
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:34
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:24
おっ! ここ行かれたん..
by sakanoueno-kumo at 22:00
なるほど。 そこまでは..
by sakanoueno-kumo at 21:49
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:13
おっしゃるとおり、悪人と..
by sakanoueno-kumo at 13:53
> sakanoueno..
by heitaroh at 11:42
案外、美魔女妻に叱られて..
by sakanoueno-kumo at 21:20
> sakanoueno..
by heitaroh at 19:43
だけど、黒木華ちゃんって..
by sakanoueno-kumo at 10:59
> sakanoueno..
by heitaroh at 18:21
検索
タグ
(67)
(56)
(55)
(53)
(51)
(46)
(43)
(42)
(42)
(36)
(33)
(32)
(31)
(31)
(30)
(28)
(27)
(27)
(26)
(26)
(25)
(24)
(24)
(24)
(24)
(23)
(22)
(21)
(21)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(19)
(18)
(18)
(17)
(17)
(17)
(17)
(16)
(16)
(15)
(15)
(15)
(14)
(14)
(14)
(14)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(13)
(12)
(12)
(12)
(12)
(12)
(11)
(11)
(11)
(11)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(10)
(9)
(9)
(9)
(9)
(9)
カテゴリ
以前の記事
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
最新のトラックバック
フォロー中のブログ
ブログパーツ
  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧