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バルトの楽園16 日独機関誌比較
親愛なるアッティクスへ

前回、ドイツ人俘虜というものの収容所内での過ごし方、ひいては、人生観という物について触れましたが、これについては、大著、「板東俘虜収容所―日独戦争と在日ドイツ俘虜」は、
「こういう生活態度、全員じゃないと思います。崩れた人もいると思います。しかし、こういった生活態度、人生観が機関紙を支えていたと思いますし、大半の人たちが崩れてしまわなかった理由であろうと考えられます。」とも述べておられます。

で、ここで、出てくる「機関誌」こそが、松山収容所などで発行されていた「ラーガーフォイヤー」のことです。
同書では、これを仮に「陣営の火」と訳しておられましたが、雰囲気からして、それに近い物があるように思います。

で、この機関誌については、
「そういう週刊の新聞を発行しました。輪転機、当時の最新鋭機だろうと思いますが、それを銀行かどこかから借りてきて、五号までつまり五週間発行します。
第五号が出たところで所長前川中佐がその新聞を発行停止処分にいたします。
(中略)
印刷機はありません。どうしたか。タイプライターはあります。カーボン紙を挟みます。
もちろん電動タイプではありません。たたき(手動)ですから(カーボン紙を挟んでも)5枚か10枚しかとれないと思います。
それを束ねて(購読)会員を募集します。ただし一人に一部は渡せません。回覧方式です。
入会金1円。購読料月当たり50銭。ちよっと高いような気もしますが、そこが契約です。
やがて平和がきたならば、回覧で回したのをきちんとした印刷で渡すという約束をしております。」というものだったようですが、この点で、思い出したことがあります。

第二次大戦後、敗残日本兵たちは、ソ連によってシベリアに抑留されたわけですが、このとき、シベリアには日本人だけではなく、ドイツ人ルーマニア人など他の敗戦国の兵士たちも多数、抑留されていたそうで、生殺与奪の権を持つソ連というものへ媚を売るというのは、どこの国の収容所でも、多かれ少なかれ致し方ないことであったと言えるでしょうが収容所内で「同士スターリン大元帥閣下お誕生日おめでとうございます!」などと書かれた新聞まで発行したのは日本人の収容所だけだったと言います。

それを考えると、この第一次大戦のときのドイツ人俘虜の機関誌は、発行停止後は回覧物ですから、日本側はまるで気づいていなかったということもあり、割と自由に書かれているそうですが、同じ印刷物を発行しながらも、自分たちの為に秘匿しながら印刷したドイツ人と、権力者の心証を良くする為に発行した日本人というのは、随分と趣が違うなと・・・。
まあ、この点は、同著も、
「この(第一次大戦時の)ドイツ兵たちの心情がずっと続いていたわけではありません。
ときの条件によって、わが日本人も日露戦争のときの将兵は立派だったと思います。上がったり下がったりいたします。
ナチス時代ドイツ将兵とは直接比べられません。」と述べておられるとおり、シベリア抑留とバルトの楽園を同じように比べるわけにはいかないでしょうがね。

ちなみに、ドイツ人俘虜は、講和後、「本国へ帰る船の中にも輪転機とワラ半紙を持ち込んで、週刊新聞を発行している」そうで、この点でも、面白い日独比較を展開しておられました。
曰く、「あらかじめ紙の計算をします。一号で16ページ。予約購読者数150人と予想。印刷ミスの予想枚数%もたてて、必要な枚数の紙を船に積み込みます。
やがて船内で予約募集を始めます。ところが予約数が予想を上回ります。
(こんな場合)われわれ日本人だったらどうするでしょうか。
たぶん皆さんに行きわたるように、16ページを12ページとかに減らして、購読料もそれに応じて下げ、印刷すると思います。
彼らが何をやったかといいますと、150部で打ち切り。あと(の予約購読者)は名簿に残しておく。そしてあのマラッカ海峡を渡ってスマトラ島の北端に港がありますが、そこに船が寄るので、その港で紙の入手を計る。
もし紙が入手できたならば、一号からさかのぼって名簿に記載された人に配布する」ことにしたとか。
なるほど、面白い考察だと思いますね。
平太独白
by heitaroh | 2006-12-25 08:39 | 歴史 | Trackback | Comments(0)
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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