瀬島龍三にみる 10のものを10発揮する努力。
以前、どこかで述べたかも知れませんが、いつもの手前勝手な持論を言わせて頂くなら、「私の拙い経験の中での話で恐縮だが、企業の中で、10の力10発揮しているところは少ない。多くが、10のうちくらいの力しか出し切れていないように思う。であれば、10のものを12にしようと努力するよりも、のものをにしようとする努力の方が、よほど、実現が用意なのではないだろうか・・・」というものがあります。
平たく言えば、「10のうち、7しか力を発揮してない組織に9の力を発揮させようとする努力」だと言えるでしょうが、そういうと、「じゃあ、具体的にどういうことを言うんだ!」とお叱りを頂戴するかも知れません。
で、具体的に、その一例として挙げるのが、元帝国陸軍大本営参謀から、伊藤忠商事最高顧問に転身し、土光臨調の参謀長にまで登り詰めた瀬島龍三という人がいますよね。
この人を「偶像化」したのが、山崎豊子氏の小説『不毛地帯』で、その主人公のモデルに擬されたことだと、保阪 正康著 「瀬島龍三―参謀の昭和史」などでは言われています。
つまり、現実の瀬島龍三という人物は、必ずしも、「不毛地帯」に出てくるような君子ではなく・・・ということが書いてありましたが、私も、この本を読んだ当時、(もう20年以上前のことですけどね。)「ここに書かれていることの方が真実なんだろうな」という気がしたのを覚えています。

この人は、伊藤忠入社後、帝国陸軍参謀本部を模した「瀬島機関」と呼ばれる部署を作り、自ら、それを率いて、伊藤忠を総合商社に育て上げていったことは周知の通りでしょうが、一方で、私が学生時代に大いに影響を受けた元陸軍参謀で兵法評論家として知られる大橋武夫氏は、当然ながら、氏とも交流があり、「不毛地帯」で描かれたところの第三次中東戦争における情勢分析について、その圧巻として述べておられました。
曰く、「①イスラエルが勝つ ②短期間で終わる ③スエズ運河は閉鎖される」と。
当時、大方の予想は、すべて、その逆であったにも関わらず、瀬島氏はこれをすべて的中させたそうですが、中でも特に人々を驚かせたのが、③を的中させたことだったそうです。
①と②は、ある程度、軍事的な知識を持った人なら、まあ、わからないでもないと言いますが、③は、さすがに、誰も予測出来なかったとか・・・。
瀬島氏に、それが予測出来た秘密こそ、この稿の本旨なのですが、それはむしろ、「人の気持ちなどわからない」と言う観があるエリート参謀の出で、伊藤忠入社後も、企業内参謀本部を作った男の発想とは思えない着眼点でした。

氏は、伊藤忠商事に入ってすぐに、トントン拍子で出世していったわけですが、副社長だったかになったとき、彼は、自ら、世界中の伊藤忠の支店、営業所を廻ったのだそうです。
中には、アフリカなど、あまりに辺鄙な場所で、存在自体、忘れられたかのような営業所などもあったそうですが、瀬島氏は、ちゃんと、そこの駐在員を訪ねて廻ったと言います。
でも、訪ねて来られた方としては、突然、そんなところへ、本社のお偉いさんが訪ねてくるなんて、「何かあるんじゃないのか!」と、当初、疑心暗鬼になって、これを迎えたそうですが、粗末な駐在所で共に夜を徹して話し込み、日本から持ってきたを酌み交わすうち、段々と、皆、心を開くようになったとか。

彼らにしてみれば、一番、耐えられないのが、「自分は忘れ去られている」と思えることだったでしょう。
本社にどんな情報を送っても本社からは何も言っては来ないし、来るはずの交代要員も来ない・・・。
これでは、「俺は忘れられて居るんじゃないか・・・」という気持ちにもなろうというもので、それは即ち、商社にとって命綱とも言うべき情報の末端神経機能不全を起こすことを意味するわけです。
瀬島氏は、彼らに、「何を言ってるんだ!会社は、おまえを頼りにしているんだぞ!」と言い、あるいは、「心配するな!本社に、この瀬島が居る限りは・・・。」みたいなことも言ったでしょう。

これで、奮い立った、これらの営業所から送られてきた情報を基に、瀬島氏は第三次中東戦争を分析し、伊藤忠に莫大な利益をもたらしたわけです。
10のものを10発揮させる努力・・・、おわかり頂けたでしょうか。
                                           平太独白

by heitaroh | 2006-11-20 01:19 | 経済・マネジメント | Trackback | Comments(4)
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Commented by 通りすがり at 2006-11-19 20:13 x
面白かったです。
>「人の気持ちなどわからない」と言う観があるエリート参謀
とありますが、やはり人それぞれなんでしょうね。エリート参謀と一概に言っても、そこに至るまでの経歴や環境などあるでしょう。
この言葉を見て、「人情を排除し冷酷である」と言う観がある憲兵や、これはちょっと範囲が限定されるかもしれませんが、「第二次大戦で、悪事の限りを尽くした」と言う観のある日本軍なども当てはまるんじゃないかなと思いました。
この方の10発揮させる努力、機会があったら他にも知ってみたいですね。
Commented by へいたらう at 2006-11-20 12:51 x
>通りすがり さん

確かに、瀬島さんも、シベリアで随分、苦労されたようですからね。
それ以前のエリート参謀時代と、以後の伊藤忠時代とでは、別人と考えた方がいいのかもしれません。
Commented by jsds001 at 2006-12-17 11:46 x
瀬島氏がシベリアで何をやったかはご存じないのでしょうか? 抑留者の洗脳を主導し、抑留者を労働させる密約をソ連とおrの結んだと言われます。また戦時中の他の事件についても責任者だと言われています。全部信じているわけではありませんが、そういう風評があることを無視して瀬島氏を持ち上げる気にはなれません。
Commented by へいたらう(管理人) at 2006-12-18 14:16 x
>jsds001さん

コメント有り難うございました。
瀬島さんは、決して、「不毛地帯」に出てくる壱岐中佐のような、聖人君子ばかりではないと、シベリアに限らず、台湾沖海戦での握りつぶし疑惑などについて、上述の保阪 正康著 「瀬島龍三―参謀の昭和史」には書いてありました。
私も、おそらく、こちらに書かれていることが真実だろうと思いました。

ただ、私は右翼左翼には関係がありませんので、それとは関係ないところで言わせて頂くなら、「良い悪い」ではなく、どんな極悪人からでも、学べるところがあれば、学べばいいというのが私の考えです。

いずれ、書こうと思っておりましたが、上田馬の助という人は、「人の足の裏を舐めてもマネーを稼げ」と言ったそうですが、そういう生き方を良しとするかどうかは、その人によって違うでしょうが、そういう生き方もある・・・と言うことを知る上では、私は参考になると思っております。
別に私は、そこまでして、金儲けしようとは思いませんけどね(笑)。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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