りんごの唄にみるサトウハチローと西条八十、詩人の凄み。
親愛なるアッティクスへ

「戦後」と言えば、「りんごの唄」ということは私のような、「戦争を知らない子供たち」どころか、「戦争を知っている子供たちの子供たち」のような世代でも耳にしていますから、やはり、当時を生きた人々にとっては、紛れもない「歴史」だったのでしょう・・・。
で、作詞を担当した詩人、サトウハチロー氏について。

私にとって、この人は、早くから、子供の頃によく耳にした童謡、「ちいさい秋みつけた」の作者として、認識しておりましたが、近年、そんな哀感溢れる詩を作る割には、派手な・・・を通り越して、破天荒な私生活で有名な人であったとも聞きました。
(まあ、親父の佐藤紅緑も、口論の挙げ句、料亭に火を付けたり・・・なんてエピソードがあったくらいですからねぇ・・・。)
その氏が作詞した、この「りんごの唄」ですが、元々は、軍歌として作られた物だったとか。
軍部の「音楽は軍需品である。」・・・という意向の元、軍歌として作ったものの軍の検閲によって「軟弱である!」として却下され、以来、ずっと、氏の手許で暖められていたもので、それが、戦後、「敗戦にうちひしがれた国民を励ましたい」という意向の元で、映画「そよかぜ」の上映に向け、その主題歌の作詞を依頼された氏が、「国民を元気づけるのは詩人の義務だ」と言って傍らから出してきたのが、この詩だということでした。

で、ここで私が思うのが、この「りんごの唄」って、確かに、曲調は確かに明るい、はずんだ歌でしょうが、歌詞だけをみたときには、割と普通の情景ですよ。
この詩のどこに「明るく励ます、元気づける・・・なんて部分があるというのか・・・。

「赤いリンゴに 口びるよせて だまってみている 青い空
      リンゴはなんにも 云わないけれど リンゴの気持ちは よくわかる
             リンゴ可愛や 可愛やリンゴ」


・・・って、特別なことはどこにもないし、一言も、「頑張れ!」とか、「負けるな!」、「立ち上がれ!」なんてのは出てきませんよね。
でも、現実に、この歌は、肝心の映画が霞んでしまうほどに、当時の人々の心を魅了し、多くの人に歌われ、活力を与え、そして、愛されたわけですから、本当に、日本中、津々浦々で口ずさまれた歌だったのでしょうが、そこまで、人々の心を捉えたほどの歌でありながら歌詞は何の変哲もない淡々とした情景・・・。
ただ、その一方で、この「りんごの唄」の歌詞を、こと、軍歌として見た場合には、何となく、意図していたところがわからないでもないような気がしますね。
リリーマルレーンの日本版と言ったところでしょうか・・・。

この番組の中で、この歌を歌った歌手・並木路子さんが、レコーディングの時に戦時中の辛い体験を思い出して、どうしてもうまく歌えず、作曲家の万城目 正氏から、「上野へ行ってきなさい」と言われ出かけていくと、大人ばかりか、年端もいかない孤児たちまでもが働いており、彼女がそのうちのひとり、靴磨きの少年に「僕、いくつ?」と尋ねたところ、「母ちゃん、いなくなっちゃったからわかんない」と答えた・・・と。
文字通り、年端もいかない子供までをも、こんなところに追い込んだ連中には、毎度の事ながら、本当に憤りを感じますが、この詩の意図したところの意味は、当時を生きてない私なんぞには、所詮、わからないのかもしれません・・・・。

その意味では、彼の師である、西条八十が、失意の中にあったときに、満を持して書いた、日本初の童謡「かなりあ」の歌詞は凄いですよね。
私は、この歌詞を知ったときには、30mくらいぶっ飛びましたよ。

出だしが、「歌を忘れたカナリアは 後ろの山に棄てましょか」ですからね。
今だったら、動物愛護団体教育委員会が目を血走らせて阻止に廻るんじゃないですか?
でも、これはまだ良い方で、二番は、「背戸の小薮に埋けましょか」で、三番は「柳の鞭でぶちましょか」ですよ(笑)。
棄てるのはまだしも、生き埋めや、ムチ打ちの刑は、まずいんじゃないですかぁ・・・。

もちろん、詩人の言わんとするところは、そのあとに、すべて、「いえいえ それはかわいそう」とか、「いえいえ それはなりませぬ」などと否定することで、子供の持つ残酷性というカミソリ柔らかく制し、最後に、
  「 歌を忘れたカナリアは 象牙の舟に銀のかい
        月夜の海に浮かべれば 忘れた歌を思い出す」

という美麗の句に繋げるわけですから、西条八十という手練れの並々ならぬ技量と、同時に、乾坤一擲想いが見て取れるような気がします。
もっとも、これって、八十自身、詩人としては、不遇期にあったがゆえに、渾身の力を込め得たのかもしれませんけどね・・・。
                              平太独白
by heitaroh | 2006-06-02 08:41 | 文学芸術 | Trackback | Comments(0)
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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