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正月に久々に読書三昧にさせられた明治の人物誌 その8
親愛なるアッティクスへ

先日の続きです。

事実がどうだったのかはともかく、もし、伊藤博文のケースが吉田東洋のそれと同じであったとしたら、日本の帝国主義者たちにしてみれば、目の上のたんこぶだった伊藤が消えてくれたことは歓迎すべき事態だったということは十二分に有り得る話だったでしょう。
だからこそ、伊藤は死に臨んで、自分を撃った相手が韓国人だと聞くと、「ばかなやつだ」と呟いた・・・と。
この最期の言葉を、「明治の人物誌」の中で星 新一氏は「自分を殺せば韓国のためにも、日本のためにもならないという意味ではなかろうか」と述べておられましたが、私には、「俺を撃ってどうする」・・・という意味と共に、相手への暖かみがある言葉に聞こえます。

そう考えれば、著者は同時に、「韓国人が伊藤博文を豊臣秀吉と並べて二大悪人と呼ぶのは、当然である。植民地支配への引き金となり、そのシンボルとなったのはたしかなのだ。しかし、日本人までが戦前の評価を裏がえしにし、大陸侵攻の元凶とし、責任を彼ひとりに押しつけてしまうのはどうか」と言っておられましたが、この点で思い出す話があります。
以前、伊藤の子孫の家に突然、韓国の国会議員を名乗る人物が訪ねてきて、何かの式典に出席し、安重根の子孫と和解するというセレモニーへ参加してくれと要請されたそうで、このとき、伊藤家側は困惑し、外務省に聞いたところ、「見送るように」と言われたので断った・・・という話でした。
これが何年前の話なのかは失念しましたが、今でもまだ、伊藤に対する嫌悪感が抜けていないことを考えれば、「和解」と言っても、下手をすれば壇上で吊し上げにあうことになった可能性もあり、外務省が止めたのもその辺を懸念してのことだったのでしょう。

もっとも、この辺の詳細についてイマイチわかりませんし、韓国側の思惑がどういうものだったのかも良くわかりませんので、これ以上、迂闊なことを申し上げる気はありませんが、一方で、同書には日露戦争のあと、伊藤が西園寺公望首相を始め、軍関係者に対して、「満州にあるロシアから譲渡された権益を保有することには、なんの問題もない。しかし、その地は清国の領土。戦いが終ったいま、軍をとどめておくことは許されない。その地方の行政および治安は、清国に一任すべきだ……」と言って、「窓ガラスがふるえるほどの大声でどなりつけた」という記述があります。
この点は、伊藤の師匠と言っても良い大久保利通も、台湾出兵による清国との交渉の後には、「実際の補償に当てた以外の賠償金は清国へ返還すべし」ということを言ったように記憶しておりますが、思えば、この師弟には共通点が多いですね。
共に近代日本に置いて大きな業績を為し、共に暗殺され、共に良く思われていない・・・、そして、共に、死後、あまり遺産を遺さなかった・・・と。

でもって、この「明治の人物誌」を読んで、もうひとつ、思ったのが伊藤は徹底した「平和主義者」だったのではないか・・・ということです。
彼が、日露戦争開戦前夜、大勢が「開戦」に傾きつつある中、独り、開戦を逡巡したことはよく知られてますが、それは平和主義などではなく、「勝てる」という確証が得られないがゆえの逡巡であり、その辺は、開戦を促す頭山 満に、「諸君らの名論卓説よりも、今は一発の砲弾が欲しい」と言ったことでも見て取れるように、現実主義政治家面目躍如たる話だとばかり思ってました。

明日に続きます。

                                         平太独白
by heitaroh | 2010-02-03 18:38 | 歴史 | Trackback | Comments(4)
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-02-04 11:01
韓国人の伊藤博文に対する今日のような感情は、暗殺事件前からもあったのでしょうか?
日露戦争後、伊藤博文が朝鮮を訪問したとき朝鮮のすべての政治家と官僚が歓迎団をつくって出迎えたと何かで読んだことがあります。その際、多くの朝鮮人が日章旗をふって歓迎したとか。当時の彼は朝鮮でも人気のある政治家だったとも・・・。
それが事実かはわかりませんが、伊藤に対しての韓国人の感情は、のちに作られた韓国の捏造史のような気がしてなりません。
Commented by heitaroh at 2010-02-04 11:26
< sakanoueno-kumoさん

歴史というものは、その時代、その場所にいた・・・、当事者だったということがない限り、いくら詳しい人でも結局は誰かが書いた物を読むか、人から聞くしかないんですよね。
その意味では、伊藤に限らず、日本も含め、今の世代の人が「史実」と思いこんで、「けしからん!」を連呼している話というのは、少なからず、伝言ゲームのどこかの時点で誰かの意思が入り込んでいるということは十分に有り得る話なんですよね。
であれば、伊藤にしても、ヒトラーにしても、もう少し、冷静になって検証し、確たる「事実」というものを確立すべきでは・・・と思うのですが、それって、日韓関係もそういう時期に入ってきた・・・ようにも思いますが、まだまだ、難しいですかね?
Commented by sakanoueno-kumo at 2010-02-04 14:02
そうですね。
とくに近代史はいろんな角度からの主観が絡むため、史料はたくさん残っているにも関らず、真実が見えません。
私など、思想に疎い者にとっては、右の話を聞けばなるほどと思い、左の意見を聞けばそれもそうだと・・・何が正しいのかわからなくなってしまいます。
事実が詳らかになって「真実」を知ることが出来るまでには長い年月が必要なのでしょうが、その頃には私は生きていないでしょう(笑)。
そういった意味では、20世紀はまだ本当の意味での「歴史」ではないのでしょうね。
Commented by heitaroh at 2010-02-04 14:32
<sakanoueno-kumoさん

ご心配なく。
私も、すぐに影響される方ですから。

ただ、右の話を聞けば、なるべく、左の話も聞くようにしており、それを勘案すれば、ある程度、自分なりの答えはつかめるような気がします。
(その点で、一番、確かなのは発掘品などの物証で、それと文献とを照らし合わせて「史実」というのは作られていくようですが、近代史ではなかなか、物証と言われても・・・って観がありますよね。)

でも、歴史というのはそれだけに逆の面でとらえることも可能なわけで、つまり、どうにでもこじつけが可能なんですよね。
家康は本当は大坂の陣で死んでいたとか、義経や土方歳三は生きていた、誰それは本当は女だった・・・等々。

そういうのは、すべてを信じていたらきりがないし、確認のしようもないことなので、私は「正史」以外のことは、最初から耳に入れないようにしていますが、とにかく、「史実」とはそれだけ難しい物であって、つまりは盲信しないことが大事だと思います。
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国際問題からスポーツまで、世の出来事に対し独自の歴史観で語ります。

by 池田平太郎
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プロフィール
池田平太郎

昭和36年 福岡市下人参町(現福岡市博多区博多駅前)で代々大工の棟梁の家に生を受ける。

昭和43年 博多駅移転区画整理により、住環境が一変する。
物心付いて最初に覚えた難しい言葉が、「区画整理」「固定資産税」

以後、ふつー(以下?)に現在に至る。

平成16年 関ケ原の戦いで西軍の総大将に担ぎ上げられてしまったために、大国毛利を凋落させた男、「毛利輝元」の生涯を描いた小説、[傾国の烙印―国を傾けた男毛利輝元の生涯]を出版。

平成18年 老いた名将信玄に翻弄される武田勝頼を描いた[死せる信玄生ける勝頼を奔らす]を出版。

平成20年 共に絶版となる。

平成22年 性懲りもなく、黒田如水・長政・忠之、三代の葛藤と相克を描いた「黒田家三代―戦国を駆け抜けた男達の野望」を出版。

平成23年 処女作「傾国の烙印」がネット上で法外な値段で売買されている現状を憂慮し、「毛利輝元 傾国の烙印を押された男」として復刻再出版

平成25年 前作、「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす」が大幅に割愛された物だったことから、常々、忸怩たる思いがあり、文庫本化に際し、新たに5倍近くに書き足した「死せる信玄 生ける勝頼を奔らす 増補版」として出版。

平成29年 兄、岩崎彌太郎の盛名の影に隠れ、歴史の行間に埋没してしまった観がある三菱財閥の真の創業者・岩崎弥之助を描いた、「三菱を創った男岩崎弥之助の物語 ~弥之助なかりせば~」を出版。

わかりやすく言うならば、昔、流れていた博多のお菓子のCM、「博多の男は、あけっぴろげで人が良く、少しばかり大仰で祭り好き」を聞き、「人が良い」を除けば、何とピッタリなんだと思った典型的博多人にして、九州データブックという、まじめな本に「福岡県の県民性」として、「面白ければ真実曲げてもいい」と書いてあったことに何の違和感も持たなかった典型的福岡人
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